召喚、そして……
春輝が意識を取り戻したのは、クラスメイトたちが王様に対して文句を言っている時であった。
意識を取り戻してすぐ、春輝は視界に違和感を覚えた。
視界がブレて見え、何故か目の前の人たちがの名前がまるで漫画みたいな吹き出しがその人の隣に表示されており、周りの人達の体から霧のようなそれぞれの色のついた何かが溢れているように見える。
「貴様らを今から地下牢獄に入れて、奴隷にしてもいいのだぞ?」
ラギアヌスの脅しの時に、ようやく春輝の目の様子が戻った。
否、戻ったというよりは収まった。未だに霧のようなものが各々から見えているし、名前の表示は未だ消えないが、視界のブレは収まった。
そうして、今までの質問を理解し、ようやく自分の置かれてる状況が分かった。
勇者として召喚されたのだ。
そして、必ず聞いておくべき事を直感した。
春輝は、異世界転移系の小説を、凰雅や千秋に付き合わされて、よく読んだ。
そういう小説でよくあるのは、呼び出したのに帰れないパターンである。
もしかして、そうじゃないかと思って、ラギアヌスに、「返してくれるのか?」と、聞いたら、ラギアヌスは「別に構わない」といった。
しかし、その人から溢れていた霧のようなものが一瞬黒ずみ、これは嘘だと直感した。
そして、こう考えた。
(向こうが自分たちを返す気がないのなら、自分たちで帰ればいい)、と。
2016年 5月21日 9時頃 イルセ王国の王城にて
王様との会話が終わった後、黒いローブを羽織った怪しげな人たちに、食堂らしき所に案内された。
この頃になると、みんな、次第に落ち着き、魔王を倒して帰るしか方法がないと理解し、黙り込んでいた。
すると、メイドさんたちがやって来て、透明なガラスのような板を渡された。
凰雅と千秋が「生メイドさんキター!」と叫んで、春輝と穏乃に殴られていたのは言うまでもない。
「そちらは、ステータスプレート、でございます。」
そう、メイド長らしき人が言った。
「開け、ステータス!とおっしゃれば、自らのステータスや、職業“クラス”、そして技能“スキル”や異能“ユニークスキル”が表示されます。」
と、さらに付け加えた。
凰雅と千秋が「おぉ~!俺!今!すごいファンタジーしてる!」とか、「ふはははは!われの隠されし力よ!今こそ目覚めるのだ!」とか言って喜んでいた。
とりあえず凰雅と千秋が元気なのは置いておいて、他のみんなも、割と興味津々そうに、ガラスのプレートを眺めていた。
すると、千秋が、
「みんなで一斉に、ステータスって言わない?面白そうじゃん!」
と、言い出した。
断る理由もなく、みんなも頷いた。
千秋が嬉しそうに笑い、カウントを始める。
「3!、2!、1!」
「「「「「「「開け!ステータスっ!!!!」」」」」」」
クラスメイトたちの声と共に眩い光が食堂を満たした。