召喚
2016年 5月21日 8時31分 イルセ王国の王城にて
春輝たちが意識を取り戻すと、そこには見慣れない豪華な部屋と周りに黒いローブを身につけた怪しげな人間、そして、正面には豪奢な格好をした、金色の椅子に座っているいかにも王様らしきおじさんと、その家臣らしい人たちがこちらを見つめていた。。
そして、なぜか一番早く状況を把握した千秋が、言葉を発した。
「どちら様?」
と。
国王であるラギアヌス、そして召喚した宮廷魔術師達は戸惑っていた。
自分達は確かに勇者を召喚した。しかし、召喚された勇者達は、あまりにも若すぎた。
自分の国でもまだ成人にもなっていないような年齢の少年少女達が、勇者として召喚されたのである。過去の召喚では、皆、成人している者ばかりであったため、そんな事があるのかと衝撃を受けていた。
そして、そのうちの1人、黒髪のショートカットの少年が、質問をしてきた。
「どちら様?」
と。
それに対し、国王であるラギアヌスが代表して、返答する……
目の前の王様らしい人が、千秋の質問に返答した。
「ようこそ、勇者達よ。我はイルセ王国第6代目国王、ラギアヌス=リーデルである。そなたたちは、我々が呼び出した。この、魔王に巣食われた世界を変えるための、切り札としてな。」
すると、それまで呆然としていたクラスメイトたちが、ざわつき始めた。
「勇者ってどういう事だよ……」
「これ、何かのイベント?」
「え、私たちって今さっきまで教室にいたよね?ねぇ、ここどこ?」
「え、え、え?ど、どういうこと?」
その質問一つ一つに答えていくように、王様が発言を始めた。
「あなたがたは、勇者として選ばれたのだ。魔王を討伐するために、我々が召喚したわけである。ここへは召喚魔法を使って呼び出した。あなたがたをこちらの世界に呼び寄せたというわけだ。一応言っておくが、これは夢でも冗談でもない。あなたがたには、勇者を「やってもらう」。」
その王様の、有無を言わさぬ説明に、クラスメイトたちが文句を言い始めた。
「ふざけるな!こんな事やってられるかよ!元の世界に返しやがれ!」
「そうだそうだ!なんでお前らの都合で俺達が世界を救わねばならないんだよ!」
「私たちを元の世界へ返して!」
それに対し王様は、冷たい目と声音で、こう言った。
「貴様らを今から地下牢獄に入れて、奴隷にしてもいいのだぞ?」
その発言に、クラスメイトたちが凍りついた。その言葉に、冗談や嘘は1ミリも感じられなかったからだ。
「……一ついいか?」
と、それまで黙っていた、春輝が言った。
「その魔王とやらを討伐すれば、返してくれるのか?俺達を元の世界へ。」
それに対し、王は、
「構わん。が、魔王を討伐できれば、貴様らは英雄だろう?こちらの世界の方に住み着いた方が幸せかもしれんぞ?」
と、答えた。
実は、召喚魔法は完成していても、それを送り返す魔法は未だに作られていない。しかし、それを本当に言えば、勇者達が落ち込むのは目に見えていた。何より、目標があれば駒というものは全力で動けることを、ラギアヌスは知っていた。
それに対し、春輝は、「分かった」と言い、ほかのクラスメイトたちも黙った。
その反応に満足した王様は完全に油断していた。
イルセ王国第6代目国王、ラギアヌス=リーデルに一つ、ミスがあったとすれば……
既に異能に目覚めている人間の存在を考えていなかったことであった……
1章スタートです♪
完成した順に投稿していくので、不定期になるとは思いますが、何とぞ、よろしくおねがいします。
次回は、春輝視点と、ステータス開放前まで行きます♪