二人の距離は
真人達が再び迷宮へ潜り込んだ頃。
千秋はまた、影と戦っていた。
影との激しい攻防に、滝のように汗を流しながら“紅桜”を振るい続ける。
「はぁ、はぁ……!アリスさぁん!そろそろ限界なんですけども!!」
肩で息をしつつ、迫り来る“想いの剣”に“紅桜”をぶつけて斬撃を受け止める千秋。
そんな千秋に、アリスは椅子に座り紅茶を優雅に飲みながら答える。
「……大口叩いた割に、大したことないのね。……がっかりよ。」
「……言ってくれるじゃないですかぁ!やりますよ!やればいいんでしょ!?」
アリスの煽りにのせられて、また力を振り絞りつつ“二体の”影に立ち向かう。
必死に刀を振り続ける千秋を見つめながら、アリスはぼんやりと考える。
(私は……どう思ってるの?千秋を。私の身勝手な願いに付き合ってくれる千秋のことを。)
そう考え、頭を振るアリス。
(……何を考えているのかしら、私は。そんなこと、どうだっていいじゃない。千秋は道具。それでいい。)
そう自分に言い聞かせると、何だか少し楽になった気がした。
「せいやぁ!」
掛け声とともに、千秋の斬撃が二体の影を両断する。
そして肩で息をしつつ、アリスの方を向いて笑う。
その笑顔に、少し自分の胸の鼓動が早くなるのを感じたが、表情には出さずにアリスは千秋に声をかける。
「……お疲れ様。……汗臭いから、早く体を吹いて。」
「えっ!?俺、汗臭いの!?」
驚きながら自分の体を嗅ぎはじめる千秋。
そんな千秋の耳に、思わず耳を疑う音が聞こえた。
「……ふふっ。ふふふ。」
そう、アリスが。
“笑っていたのだ”。
笑うアリスを、呆然と見つめる千秋。
その視線に気がついたアリスが、また無表情に戻って千秋に質問する。
「……どうしたの?」
「な、何でもないデス……。」
アリスの顔をボーッと見つめていた千秋がハッとして頬を染めながら答えた。
そんな千秋の態度に「……変なの。」と呟きながら、家に入っていくアリス。
庭に取り残された千秋は、寝転がって呟いた。
「……あんなの、反則だよ。」
二人の距離が、少し近づいた。