神様の言葉
「……あ〜。癒される〜。」
春輝は、一人で使うには大きすぎる湯船に身体を浮かべ、そんな声を漏らす。
疲れをほぐされ、少しずつ意識が薄くなっていく。
いつのまにか、彼の意識は途絶えた。
「……あれ?」
春輝が目を覚ますと、目の前は白一色だった。
一切の汚れすら見つからず、どこまでこの空間が続いているのかも把握できない世界。
その光景に呆然とする春輝の目の前に、青白い鬼火のような物が出現する。
「やぁ、久しぶりだね。わかるかな?ボクのこと。」
そんな声が春輝の頭に響く。
「……あぁ。久しぶりだな。自称神様。」
春輝はそう言って、自称神様と呼んだ鬼火のような物に笑いかけた。
「で、何の用だ?」
「用件が無ければ呼んじゃいけないのかい?」
春輝の問いに、愉快そうな声で返す神様。
「時間があるわけじゃないんでな。用件、早く言ってくれ。」
「え〜。ボクの世間話くらい、付き合ってよ。」
「今日はもう疲れた。早くベッドに入って寝たい。」
春輝が素直にそういうと、神様は笑い声を上げる。
ひとしきり笑い終えると、神様の纏う雰囲気が変わった。
「なら、単刀直入に言おう。……東雲春輝君。君の黒い魔力は、金輪際使用禁止だ。」
「……理由を教えてくれるか?」
「……君だってあの魔力の危険性は分かっているんだろう?」
神様が聞き返すと、春輝は素直に頷く。
「……ああ。あの魔力はヤバイ代物だ。片腕だけなのに、意識を奪われそうになった。……あの魔力は、なんだ?」
「……君のもう一つの力が存在するために、必要なものだよ。
春輝君、君は、美冬君のことを、殺せるかい?」
唐突に、そんなことを問う神様。
「……は?殺せるわけがないだろ?」
当然のように、春輝はそう返す。
その回答に満足したのか、ウンウンと言いながら、神様は言葉を続ける。
「あの力を使えば、君は美冬君を殺すことになる。いや、君を愛する人、君が愛する人を全員殺すことになる。」
告げられた言葉に、春輝は動揺する。
「……あの力は、何なんだ?」
震えまじりに春輝が聞き返す。
「その質問には、こちらも答えられない。だけど、これだけは言える。
その力は君が扱うべき力じゃない。君には、もう一つの可能性がある。……ボクは、そっちを選択して欲しい。例え、その力が黒い魔力よりも弱かったとしても。」
神様はそう言うと、前までのにこやかな雰囲気に戻る。
「さ、そろそろ時間だよ。……春輝君、欲望に負けないで欲しい。身の丈に合わない力は、自分の身を滅ぼすだけだから。」
「……わかった。黒い魔力は金輪際使わない。約束しよう。」
春輝がそう言うと、ホッとしたように息をつき、神様は微笑んだ……ような気がした。
「約束だよ、春輝君。ボクは、キミに期待してるんだから。」
その言葉を最後に、春輝の意識は現実に引き戻された。