過去編 千秋の過去 part1
今回から、千秋くんの過去編です!
現在の千秋くんの雰囲気とはまた少し違った感じの千秋くんを描けるよう、がんばります!
それでは、どうかご照覧あれ♪
東雲千秋は、どのような人物か。
今、こんな質問をしても、返ってくる答えはたった一つだろう。
「途方もなくバカな完璧人間。」
どこをとっても欠点がないとさえ言える、そんな人間。
では、東雲千秋は本当に完璧な人間なのか。
そもそも、完璧とは何なのか。
その質問には、誰も答えられないだろう。
完璧なんてものは存在しない。
少なくとも、東雲千秋本人はそう考えているのだから。
話を変えよう。
東雲千秋は、どのような人物か。
もしも、小学校3年生、すなわち、東雲兄弟が転校してきた時期。
その時、この質問をすれば、どんな質問が返ってきたか。
くしくも、その答えは一致しているのだろう。
「顔だけはカッコいい、弱虫な少年。」
東雲千秋は、小学校3年生の頃。
イジメにあっていたのだ。
「今日から、みんなのお友達になる、東雲春輝君と千秋君です。みんな、仲良くしてあげてね?」
お決まりなセリフを言う若い女性の先生。
「春輝君、千秋君、自己紹介。」
先生が促すと、その時から女の子のように綺麗な顔をしていた少年は透き通る綺麗な声で、ハキハキと自己紹介を始める。
「東雲春輝です。好きなことは料理と走ることです。よろしくお願いします。」
続いて、幼いながら整った顔立ちをした千秋がボソボソと口を開く。
「……東雲、千秋です。趣味は、ゲームです……。よろしく……。」
そう言って恥しがりながら俯く。
その態度に、女子たちは口々に「カッコいい」と話し、千秋はその声にビクッとなる。
現在の千秋からは考えられないほど、臆病な千秋であった。
「……お、おにーちゃん。一緒に、帰ろ?」
授業が終わって、千秋が春輝にすこしビクビクしながら声をかける。
そんな千秋に、春輝は微笑んで答える。
「あ、ごめん、千秋。俺、このあと望月さんって子の所に、プリント届けることになったんだ。一人でも、帰れるか?」
少し心配そうになった春輝の態度にムッとして、千秋は答える。
「大丈夫だよ……!僕だって、子供じゃないんだから。」
「お前、子供だぞ?」
そう言って苦笑しながら教室のドアを開けて走っていく春輝。
そんな春輝の後ろ姿を見守っていると、千秋は背後に気配を感じた。
「おい。お前、ちょっとこい。」
後ろを振り返ると、見るからにガキ大将みたいな、ガタイのいい少年と、取り巻きの少年達が千秋のことを睨んでいた。
春輝が美冬と初めて出会った日の夜、まだ少しぎこちない手つきで夕食を作っていると、まだ新しいドアの解錠音が聞こえ、ドアが開く。
春輝がパタパタとスリッパを鳴らして、エプロン姿のままドアの方へ近づくと、そこにはボロボロになった千秋の姿があった。
「なっ……千秋!何があったんだ!?」
焦ったように春輝が駆け寄ると、千秋はそれを鬱陶しそうな顔をしながら素っ気なく話す。
「……喧嘩しただけだよ。おにーちゃんには関係ないから、大丈夫。」
「喧嘩って……お前、それ、喧嘩なんてレベルか?」
「おにーちゃんには関係ないでしょ!?黙っててよ!……あっ。」
しまったと思って千秋が顔を上げると、春輝が泣きそうな顔を歪めて苦笑していた。
「そうだな。俺には関係ないな。悪かった。」
「い、いや、あのね。」
「そんなことより、ご飯、食べようぜ。あ、その前にお風呂にするか?」
「……うん。お風呂、入ってくる。」
そう言って春輝の顔を見ずにお風呂場に向かう千秋。
顔を見れば、内心を吐露してしまいそうで、見れなかった。
服を脱ぎ捨てると、幼い体にはかなりの痣が刻まれていた。
千秋が暴力を受けた理由は簡単だった。
顔がよかったから。
女の子にカッコいいと言われたから。
その女の子が、たまたまガキ大将の好きな子だったから。
ただ、それだけ。
要するに、逆恨みだった。
千秋は、無性に腹が立った。
その理不尽すぎる暴力に。
そして、何もできない自分に。
お湯に浸かりながら、千秋は春輝にバレないように、声を抑えて泣いたのだった。
夕食の間、春輝はイジメのことに関して一切口にしなかった。
本当は、千秋は言って欲しかったのかもしれない。
そうして、内心を吐露してしまって、春輝に助けてもらおうと思っていたのかもしれない。
しかし、自分で拒絶してしまった手前、それを言い出すことは出来なかった。
小さなプライドに似た何かが、それを邪魔した。
春輝は、今日あった望月さんという女の子の悪口を言ったり、その女の子のことを褒めたり、まるでもう友達になった子のことを話すように嬉しそうに語った。
いや、事実、春輝の中ではもう既に、美冬は友達だったのだろう。
そんな話を聞いていたら、弱々しい自分が嫌になって、ぱぱっと食べ終わってすぐに自分の部屋に逃げ込んだ千秋。
春輝が、それを心配そうな顔で見つめているのだった。