執事との会話
春輝がドアを開けるとそこには、高価な素材で出来てそうな執事服を着て、眼鏡をかけ、白いヒゲを蓄えた白髪の、優しそうな笑みを浮かべた老人が立っていた。
老人は、大袈裟な礼をして、挨拶をし始めた。
「こんばんは。夜分遅くに申し訳ございません。そしてはじめまして。私はイルセ王国第三王女リオネス=リーデル様の執事をしております、ジルと申します。本日は早急に貴方様にお願いしたい事があって、訪ねさせていただきました。こんなところでは難ですし、詳しいことはラウンジで話したいと思いますので、付いてきて頂けますか?」
「……分かりました。では、俺からの質問に答えていただけるなら、お願いとやらを聞きましょう。」
「えぇ。構いませんよ。ではこちらへ。」
そう言って歩き出した老人に素直について行く春輝。
ジルという老人の歩き方を見て春輝は、
(……この人の歩き方はあまりに隙がなさすぎる。本当に、執事なのか……?)
と、目の前を歩く人物を訝しみながら後ろを歩くのだった。
ラウンジについた後、すぐにジルは口を開いた。
「では、まず貴方様の聞きたかったことをお話ください。」
「……俺が今日、2度感じた視線。あれはあなたのものですよね?」
そう春輝が聞くと、ジルは目を見開き、
「……驚きました。魔眼があるとはいえ、私の気配遮断スキルを見破るとは。そうです。私が貴方様の行動を見させていただきました。1度目は勇者全員を、ですが。」
「力量を見られていた、という事ですか?」
「えぇ。これから話すお願いも、貴方様の力量を見込んでのことです。」
「……買いかぶりすぎですよ。俺は、ただの人間です。」
「そうですね。貴方は“まだ”ただの人間です。しかし、あなたの内包する魔力は底が知れない。ですから、こうしてお声をかけさせて頂いたというわけです。」
そう言って、一度言葉を区切り、少し息を吸い込んだ後、ジルは、
「単刀直入にいいます。ハルキ様、私と共にお嬢様にお仕えしませんか?」
と言った。
当然、春輝は返答に困った。その[お嬢様]という人がどんな人かも知らないし、自分には執事としての身のこなし方なんて、少しも分からないからだ。
「すぐに結論を、とは言いません。三日間、お試しでお仕えしてみてはいかがでしょうか?幸か不幸か、ハルキ様は迷宮の攻略には狩り出されていませんし。」
「……そうですね。では、三日間、試しに使えてみようと思います。今のところはすることもありませんし。」
「そうですか。お話を請け負ってくださり、ありがとうございます。
ところで、ハルキ様、起床はいつも何時頃でしょうか?」
「え?大体4時位ですかね……。」
「では、明日の午前5時、第三訓練場に来ていただけますか?出来れば動きやすい格好で。」
「え、えーと、何をされるおつもりですか?」
「いえ、変なことはしませんよ。現在のハルキ様の実力を見させていただきたいだけです。」
「あ、はい。わかりました。」
「では私はこれにて。おやすみなさい。」
そう言って、ジルは城の方へ戻っていった。
春輝は少し、夜空を見上げた後、
部屋に戻り眠るのであった……。