ボス戦!(35階層)
34階層までを無事に攻略し終えた勇者達は、35階層の入口の前に来ていた。
「さて!次はボス戦だね!みんな、気合入れていくよー!」
「なあ、千秋、本当にダメか?」
「ダメ!ハル兄が戦ったらみんなの訓練にならないから!今回はサポートに徹すること!いいね?」
「……分かったよ。でもやばくなったら参戦するぞ?いいか?」
「その時は俺が許可を出すから!ハル兄は黙って援護ね!」
「はいはい。」
「さ、じゃあ、いくぞー!」
その掛け声に「おー!」と応じる勇者達。
少し春輝は不貞腐れながらボス部屋に入るのだった。
春輝達が35階層に入ると、暗闇の中に火が灯り、部屋全体が照らされる。
すると、中にいる1匹の猛獣が照らされる。
中にいたのは、白い毛の美しい虎、伝説上の四獣の1匹、白虎であった。
「行くよ!みんな!」
千秋が全員に声をかけると同時に白虎が咆哮する。
その大音声を聞きつつ、千秋達は攻撃を始める。
まずは近接型の美冬と愛歌が先陣を切って白虎を吹っ飛ばしにかかる。
しかし、白虎は二人の一撃を食らってもびくともせず、美冬たちは急いで後ろに下がる。
そこで、真人がすかさず光線銃を打つ。
その一撃は流石に危険だと感じたのか、白虎は避ける。
その避けると思われる場所を先に予測して、[紅桜]を抜き放ち、白虎に振り下ろす千秋。
もちろん、振り下ろす際に重さを重くするのも忘れない。
その一撃を避けきれず、ダメージをおう白虎。
そして少しのひるんだ白虎を見逃さず、勇者達も攻撃を加え出す。
こうして、白虎攻略は楽に終わる……はずだった。
徐々に白虎の体力が削れ始め、疲弊し始めた白虎。
調子に乗り始め、少し浮き足立つ勇者達。
しかし、その油断が命取りとなる。
突如、白虎の体が白く発光しだし、動きが一段と早くなる。
その早さに驚愕する一同。
最悪のタイミンクで攻撃のモーションにうつっていた千秋に、白虎の口から放たれた光のブレスが当たる。
その瞬間、千秋は……。
その場から、跡形もなく消え去った。
その光景を見て、呆然とした春輝、そして勇者達。
次の瞬間、敵の主力を消せたと勘違いした白虎は思い知る。
白虎がこの迷宮内で人間や魔物達を殺し続けて約数百年。
それまで一度たりとて感じたことのない、恐怖という感情。
白虎は、目の前で“黒い魔力”を纏わせて、刀を抜く春輝のその殺意に恐怖を抱いた。
真人は、目の前の光景に声も出なかった。
もちろん、長年付き合ってきた相方を消されて、殺意がわかないわけがないのだが、それ以上に“恐怖”という感情が勝っていた。
同じく長年付き合ってきた幼なじみである春輝の出す殺気を感じて、この場から逃げ出したいとすら思った。
それほどまでに、春輝の殺気は恐ろしかった。
(……なんで千秋が消えたんだ?)
春輝は、自分の半身のような存在である弟が消えて、咄嗟にそう思った。
そしてその直後、春輝の心が憎悪に埋め尽くされた。
千秋が殺されたと理解し、とめどなく憎悪が押し寄せた。
殺した白虎に対して。そして、守れなかった自分に対して。
その怒りの矛先は当然、千秋を消した白虎に向いた。
(殺す……殺す!絶対こいつだけは許さねぇ!)
春輝の頭は、それしか考えれなかった。
刀を抜き放ち、魔力を込めると、“黒”、それも真人のような美しさを黒ではなく、この世の醜悪なものをすべて詰め込んだ様な、そんな“黒”が春輝を覆い隠す。
しかし、春輝はその事に全く気が付かぬまま、目の前の自分に対して襲いかかってくる白虎を、文字通り“一刀両断”する。
憎しみに支配されても、その美しい太刀筋は健在で、白虎は周り血をまき散らすことすらできず、青白い光となって消え失せた。
春輝は刀を鞘に収めた瞬間、自分の中から怒りが消えていくのを感じた。
そして同時に、底の知れない喪失感と、とめどない悲しみの感情があふれでてきて、大粒の涙となってこぼれた。
そして、子供のように大声を上げてひたすらに泣いた。
それにつられ、周りの勇者達もむせび泣く声が聞こえ、地面に拳を叩きつける音が聞こえた。
「……その、ね?ご主人様、泣いてるところ、悪いんだけどさ……。」
そう言って、サラが近づいてきて、ポンッと泣き続ける春輝の肩を叩き、
「千秋君、生きてるよ?この迷宮内にいるよ?」
と、告げた。
その瞬間、場の空気が固まった。
そして、みんな口を揃えて、
「「「「「……え?」」」」」
と、疑問の声を上げた。
5分後、サラが説明し終え、真人が納得したように頷く。
「……なるほど。マーキングしておいたのか。」
「うん。ご主人様の命令でね。もしもの時のためにって、朝食の時に全員につけておいたの。」
「……で、それによると、千秋は転移させられただけ、と。」
「そうそう。……ご主人様が泣き止まないんだけど、どうしたらいいの?」
「しばらく放っておいてやれ。嬉し泣きだから。それよりも、どこにいるんだ?」
「……それがちょっと不味いかもしれないのよね……。」
「……まさか、転移したのって……?」
「うん……。このだいぶ先の、78階層。」
「……それって、普通にやばいのではないか?真人殿。」
「ああ、凰雅。相当にやばいな。」
「こうしてはおれん!急いで先に……」
「……待ってくれ。」
そこでようやく泣き終えた春輝が、目を腫らしながらも口を開く。
「俺とサラの二人で行かせてくれないか?その方が多分、みんなで行くより早い……と、思う。」
「な!ハル!我も行くぞ!」
「……凰雅、お前じゃ俺達について来れない。」
「……なら、私が行きます。」
そう言って手を上げる美冬。
「私なら、ふたりと同じ速度で進めます。それに、二人じゃ危ないですよ。」
「……分かった。なら、美冬と俺とサラの三人で行こう。」
「ま、待て!春輝!お前は私の執事だ!私を守るのが仕事だぞ!」
そう言って、リオネスが焦ったように叫ぶ。
「……お嬢様。申し訳ありません。今は仕事とか言ってる場合じゃないんです。」
「し、しかし!」
「クビにして下さっても構いません。千秋を失うくらいなら、その方がいい。」
そう言って、覚悟を決めたような表情をする春輝。
その顔を見て、狼狽えるリオネス。
少し悩んだ後、リオネスは声を上げる。
「……分かった。千秋の救出を許そう。」
「お嬢様……!」
「ただし!私も連れていけ!それならば問題ないだろう!」
「……お嬢様、先程も言いましたが、遅くなるのは……。」
「ご主人様なら、1人くらい抱えてでも走れるでしょ?」
「春輝君!連れていってあげないと、リオネスが可哀想ですよ!」
「……どうしてそうなる。」
そこでジルが口を挟む。
「春輝殿。私からもお願いします。お嬢様の安全を考えるならば、ここで私たちが守るよりも、あなたと先に進んだ方が安全な上に良い経験にもなりますから。」
「……ジルさんまで……。」
そこで、悩むような素振りをして、春輝は決意する。
「分かりました、お嬢様。一緒に行きましょう。ただし、乗り心地は保証できませんよ?」
「……ん?乗り心地?」
そう言って、有無を言わさずリオネスを“お姫様抱っこ”する春輝。
周りの女子からキャー!っと黄色い声が上がる。
「行きますよ、お嬢様、美冬、サラ。」
「う、うむ!分かった!分かったから、この抱き方はやめてくれぇぇぇぇ!」
その声を無視して全速力で走り出す春輝。
転移させられた弟の元へ、一直線に走り抜けるのであった。




