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無限書庫の優雅な休日  作者: 二ツ樹五輪(*´∀`*)
『その無限の先へ』第五章
18/28

第17.2話「ツナとフェイズとゴブタロウと結構どうでもいい話」

確かに煎り豆って痛いよね。(*´∀`*)




-節分II-




「君たちに集まってもらったのは他でもない」


 節分イベントも無事終了した二月四日。俺はなぜかギルド会館の三階に呼び出されていた。

 ここ三階にはイベントや講習で使うホールしかないのだが、今日に限っては机も椅子もない。ガランとしたホールだ。

 ちなみに呼び出されたのは俺だけではなくホールには他にも冒険者が集まっているが、みんな立ったままである。多分、ここで何かをするのではなく、どこか別の場所へ移動する前提なのだろう。いや、何をするのか知らんが。

 ホールを見渡してみても、ここにいるのはあまり付き合いのない下級ランクが主らしく、顔が一致する冒険者は……いた。

 いつかレーネ絡みのイベントで監禁させてもらったフェイズさんがボーっと突っ立っているじゃないか。

 普段なら用もないのに声をかけるような間柄ではないが、良く分からないうちに連れてこられた身としては解説役が必要だ。


「よお、久しぶり」

「ん……うおっ! あ、悪鬼さん」


 普通に声をかけただけなのにひどい反応である。ビビられるような事なんて……ちょっと心当たりはあるが大した話ではないはずだ。


「な、なんでこんなところに……というか、何故俺に話しかけてくる」

「こんなところっていうか、なんで呼び出されたのか分かんねえんだよな。知り合いもフェイズくらいしかいないし」

「そりゃ、そういう連中ばかりだからな……むしろなんであんたがここに?」

「ゴブタロウさんに呼び出された」


 当の本人は説明もなしに壇上に上がって挨拶を始めているが、まだ本題らしき内容に触れていない。

 前置きとして関係ない話を始めるあたり、こういうスピーチが好きなのかもしれない。上手いかどうかは別として。


「俺も詳しく聞いてるわけじゃないが、稼ぎの良くない冒険者に向けた救済のバイトだって話だ。ここにいるのは大体下級冒険者だぞ」

「そうなん?」


 志願制の集まりだったのか。良く見れば、周りは地味な連中ばかりだ。フェイズを含め、なんか如何にもモブっぽい連中しかいない。

 確かにこの面子だと俺の存在は浮いている。別に困窮しているわけではないし、バイトを紹介してくれと頼んでもいない。どう考えてもゴブタロウさんが個人的に巻き込んできたようにしか思えない。いや、普段世話になっているし、バイトだというのなら別にやってもいいんだが……。


「半日仕事で日当一万円、食事付き、ついでに< 美食同盟 >のランチチケットも貰えるらしい」

「突発のバイトとしてはなかなかだな」


 特にランチチケットは欲しい。確かこのチケットがあれば、混雑しているランチタイムに個室で優雅な食事を提供してくれるのだ。

 値段としては高々二千円だが、あっという間に売り切れてしまうのでレアアイテム扱いである。サービス対象時期にもよるが、オークションでは数倍の値段に跳ね上がる事も多いらしい。

 ゴブタロウさんは< 美食同盟 >の名誉顧問的な存在だという話を聞いた事があるが、多分その絡みでチケットが手に入るのだろう。あのゴブリン、ゴブリン肉が絡まなければ真っ当な料理人らしいし。


「さて、今日君たちにやってもらうのは、節分イベントのリニューアルテストだ。このイベントはどうも盛り上がりに欠けるのか、あまり参加者がいない。そのテコ入れだな」


 壇上のゴブタロウさんが、ようやく本題について語り始めた。

 節分イベントは昨日で今年は終了してしまったが、来年以降に反映されるテストなのだろう。

 ……まさか、俺呼ばれたのって鬼役じゃないだろうな。ここにいる連中全員から豆を投擲されるのは勘弁願いたい。もしそんな事になったら、受け止めて投げ返す逆襲劇も考慮せねばならないところだ。泣いた赤鬼だって、追撃を喰らい続ければキレる。


「あのー、一応聞いておきたいんですが、俺もここの人たちと同じ扱いって認識でいいんですか?」

「ああ、鬼役にされる懸念があるという事か。渡辺君はたまたま見かけたから連れて来ただけで他意はないよ」


 それは良かった。泣いた赤鬼による逆襲劇は展開されないようだ。

 思いつきで巻き込むのは止めて欲しいが。せめて、事前の説明は欲しい。


「本職の鬼連中は用意できなかったが、代わりの鬼役についてはちゃんと用意してある。入ってくれ」


 ゴブタロウさんが合図をすると、フロアのドアを開けて複数の黒服たちが入って来た。

 黒服たちは手に縄を持ち、多分鬼役になるだろう存在を引っ張って来ている。

 連れてこられたのは縄に掛けられたゴブリンだ。なんか体が赤いが多分ボディペイントだろう。あと、虎柄のパンツ。


「イヤっスっ!! こんな仕事は勘弁っスっ!! オイラたちはヨゴレ芸人じゃないっスっ!!」


 その内の一人が叫んでいる。ゴブリンの見分けは付かないし口調はゴブサーティワンに似ているが、多分あれは親父のゴブザブロウだろう。


「オイラはゴブジロウに騙されただけっス!! くそーっ!! 通しのサインでは字牌は安牌だったのに」

「私相手にイカサマをしようとするから裏切られるのだ。ちなみに最初からこちらはグルだったがね」

「ちくしょーっ!!」

「黙れゴブザブロウ。賭けに負けたんだから、大人しく鬼役をやりたまえ。他の連中は大人しくしてるだろう?」


 大人しくしているというか、連れられてきた他のゴブリンは悲壮な表情で俯いている。なんというか……、どうしようもない現実を前に諦めただけの姿に見える。

 それを見た冒険者たちといえばドン引きである。連れられて来たゴブリン連中は生贄にしか見えないのだから当然とも言えるだろう。普段、ダンジョン内で戦う仲だとしても、さすがに同情せざるを得ない。

 ……でもまあ、豆まきなら大事にはならないだろう。冒険者が投げる豆は痛いかもしれないが、普段殴られたり斬られたりしているのに比べたらマシじゃないだろうか。


「俺さ……登録の時、あの叫んでるゴブリンに担当してもらって、ゴブタロウには気をつけろって言われたんだよな」

「それ、ゴブタロウさん以外は定型文らしいぞ」


 隣のフェイズは遠い目をしていた。そら、あんな扱いされてたら気をつけろって言いたくもなるわ。


「さて、この配役については別にゴブリンが用意しやすかったからというわけではない。迷宮都市ではあまり馴染みはないが、ゴブリンは小鬼と呼ばれる事もあるらしいから、広義の意味では間違っていないのだ」


 確かに、日本のファンタジー小説やゲームだとそういう事もあるな。あいつらに《 鬼特攻 》は通じないけど。


「体も赤いし」


 それはボディペイントだ。


「そ、それで、鬼の役を代えただけって事か?」

「いや、いくらなんでもそれはないだろ」

「……居た堪れない」


 ようやく落ち着いたのか、固まっていた周りの下級冒険者たちが再起動を始める。いかつい連中ばかりだが、意外な事に会話はまともだ。


「当然、そんな甘い事では視聴率は取れないからね。メインの変更点は別にある。鬼でないのなら……そう、豆だ!」


 大々的なネタ明かしのように言っているが、もうそれくらいしか手を入れるところがないから別段驚きもない。

 視聴率も……きっと毎年どこかで放送してるんだろう。


「すげー嫌な予感がするっス。……オイラたちになんの豆をぶつけるつもりっスか」

「納豆だ」

「……は?」


 そりゃ、福豆も納豆も同じ大豆だけど何故そんな結論になった。

 予想しなかった展開に冒険者たちもざわつき始める。


「納豆って、良く朝飯に出てくるアレだよな」

「ネバネバしたやつ」

「あれ投げんの?」

「つーか、なんで納豆?」


 ぶつけられる側よりはマシだが、あまり投げたくないな。ベトベトするし。塊でしか投げられないから補充も大変だ。


「理由については、節分イベントについて寄せられたこのメッセージが元だ。投稿者についての情報は控えさせて頂く」


『泣いた赤鬼に追撃を……なんて酷いイベントなんだ。どっちが鬼なんだよ。せめて投げつける豆は硬い炒り豆じゃなくて、柔らかい納豆にしてあげないと』


「感想欄じゃねーかっ!?」


 ユキさんといい、こいつら第四の壁を簡単に突破し過ぎだろっ!? 番外編にしたって限度があるんだぞ!? メタネタに依存するんじゃねーよ!


「硬い豆ではなく、柔らかい豆。納豆! つまり、これは鬼側に対しての救済処置! むせび泣くのだ、ゴブザブロウ!」

「……違う意味で泣きそうっス」

「最近慣れてきてしまった泣いた赤鬼役も、この追撃を喰らえば更に泣かざるを得ないだろうな」


 そうね。ちょっとどうでも良くなってきたけど、俺なら泣くね。


「そして、参加者も手で投げるのは嫌だろうとこんなモノを用意した」


 ゴブタロウさんの脇に置いてあった包みから、黒光りするモノが取り出される。

 重厚で対象を無数の弾丸で撃ち殺すために作られたモノ。携帯可能な銃器としてはかなり大型に分類されるそれは、どう見てもサブマシンガンだ。いや、ここは冒険者なら携帯可能だろうとミニガンを取り出してこないだけマシなのか?

 というか、納豆撃つためだけにそんなモノ作ったのか。


「NATTO規格のサブマシンガンだ。これで専用マガジンに詰められた納豆弾を撃ち出す事ができる」

「ダジャレかよっ!?」


 それに反応したのは俺だけだった。

 そりゃ誰もNATOなんて知らんだろうが、まさかこのためだけに呼ばれたわけじゃないだろうな。……有り得る。


「なに、本物のサブマシンガンに比べたら大したスペックではない。秒間十五発、有効射程五十メートルというゴミスペックだ。鬼役もさすがに納豆で死んでは死にきれんだろうからな」


 いや、それでも手で投げつけるのと比べたらえらい事になるんですが。しかも、一人じゃなく何十人もの参加者がそれを撃つわけだよな。

 泣いた赤鬼さん、トラウマになるんじゃないだろうか。追撃ってレベルじゃない。


「基本的にフルオート、だが、納豆特有の粘り成分が銃身に溜まっていくから、タイミングを見てこちらのトリガーを引けば、タンクから粘りのみが射出される。ああ、お茶の間のみなさんから食べ物を粗末するなとクレーム付けられないよう、納豆弾は回収後に肥料用として使われる特殊大豆だ。食べられない事はないが、基本的に食卓に上がらないものだから美味しくはないぞ」


 壇上のゴブタロウさんは、どうだ各方面への対策も完璧だろう、というドヤ顔だった。

 いや、敏腕なのかもしれないが、何故そうなってしまったのか。努力の方向性を大いに間違っている。


「……俺、そろそろ自分の常識が保っていられるか不安になってきた」

「いいかフェイズ。迷宮都市でそんな心配しても無駄だ。ああいった手合いに関しては諦めるのが一番だ」

「……そうだな」


 何故、俺の顔を見て頷くんだ。おい。


「では黒服さん、鬼役を出荷してくれたまえ。バイトの諸君はサブマシンガンの使い方について軽く講習してから、テスト用の会場に移動してもらうから……」

「嫌っスっ!? は、離せーっ!! いやーっ!!」


 黒服に攫われていくゴブリンたちを生暖かい視線で見送る。もはや、この状況に突っ込む者はいなかった。


 ……まあ、アレな内容ではあるが、別に特別俺に被害があるわけでもない。納豆の臭いは染み付くかもしれないが、手で投げつける必要もなく専用の射出器まで提供される。撃たれるのもゴブリンたちだ。何故か普段雑魚モンスターとしてやられるよりも哀れに感じるが、この際どうでもいい事である。


 俺やフェイズを含む参加者の冒険者たちは、死んだような目で銃の取扱実習を受ける。思ったよりも納豆の臭いがきつくないのは幸いだ。

 そして、テストが始まる。




 ぶっつけ本番とは言わない。なんせこれはテストである。問題があれば洗い出しをして対策案を検討、本番に活かすためのものだ。

 問題はあって当然なのだ。……だが、それを加味してもひどい惨状が展開された。

 逃げ惑うゴブリンたちと無数に飛び交う納豆。弾速が遅いので別に死にはしないが、それでも秒間数百発の納豆が飛ぶ。

 そして、定期的に射出される粘り成分。そんなに粘らなくてもいいだろうというほどに粘着質な物体がゴブリンを襲う。

 どう控え目に見ても地獄絵図だった。絵ヅラ的にあまりにアレなので、サブマシンガンを含めて企画自体が封印対象になるほどである。




「……俺、早くこんなバイト紹介されないくらいの冒険者になるよ」


 終了後、そう呟いたフェイズに周りの冒険者が同意していたのを見た。

 ……その理屈で言うと俺は関係ないはずなんだが、何故参加しているのだろう。

 いや、マジで。




……なんかもう、本当にごめんなさい。(*´∀`*)

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