その林檎の味は
「へい、らっしゃーい!」
居酒屋に入ると、やはり周囲は仕事帰りのサラリーマンで溢れかえっていた。
仕事の愚痴を吐く人、酔っ払って泣き始める人、それを介抱する人...いろいろな人がいる。
居酒屋らしい居酒屋に入るのはとても久しぶりで、少し緊張していた。
「ここでいいかな」
そういって彼はカウンター席に座った。
私も隣に座る。
今度は違う緊張におそわれていた。
心臓がどきどきする。
学生時代に好きだったということもあり、意識してしまっているのだろう。
どうか相手に悟られませんように...!
「おーい、聞いてるー?」
「ん?」
「ん?じゃなくて、何飲むの?」
そう言いながらメニューを渡される。
ふと、視線を落とすと、カクテルの文字が目に入った。
「カクテル...にしようかな」
「カクテルかあ~、おっしゃれ~」
「そう?」
よくわからないけど、彼がおしゃれというのだから、そうなのだと信じておこう。
「それで?どのカクテルにするの?」
どれにしよう...
いつもなら、カシオレにするのだが、そろそろ飽きてきた。
「うーん...」
「あ!これとかどう?白雪姫!」
「白雪姫?」
[白雪姫]
りんごと・・・・・・・・・・甘さの中に酸っぱさがあるカクテルです。
メニューにはこう記されていた。
りんごか...
なんだかおいしそうだし、飲んでみよう。
「うん、白雪姫にしようかな」