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神様の居酒屋  作者: 所長
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 高い高い山の中に、人が踏み入れることが出来ない異空間が有った。

 立ち入ることが出来るのは、神か仙人か妖か。

 そういった、そこに要るのに人や獣とは次元を違える世界に生きるものには、その入り口が見えた。

 今、その山中に、雨に紛れるかのように、空から一筋の光が真っ直ぐに落ちていった。

 入り口の真ん前で、光はピタリと止まり、人の形を成していった。

 人の形ではあったが、そのものは人間にしてはかなり巨大であった。

 真っ赤な衣装を着た彼は、巨体に似合わず、入り口の前で小さくもぞもぞと動き、次の行動をどうしたものかと逡巡していた。

 赤い衣装の者の名は炎帝と言い、彼は今入ろうかどうしようかと、うろうろしている場所は、彼の娘が住む、正確には封じられている山であった。

 炎帝は時々この住まいに来ては、娘の様子を伺っていた。

 そして来る度、こうして入り口で散々迷った挙句、結局いつも重い足取りで娘の元まで行っていた。

 神とは言え、炎帝も娘の事となると、ただただ心配なのだ。

 ましてもう、数えきれない年月眠り続ける娘である。

 今日は目覚めているだろうか、また、まるで死人のように眠る娘と対面することになるのだろうか。

 そんなことを思い、彼は雨に濡れるにも関わらず、今もその場で中に入るのを躊躇していた。

 まるで毎度毎度の恒例行事のように。

「はあ……顔は見たいし……入るか」

 自分に言い聞かせるように、炎帝は独り言をあえて声に出した。

「だったら早く入ってほしいんだが」

 不意に炎帝の後ろから男性の声がした。

 背後に何者かが居ることにさえ気づかぬほど、炎帝は娘の事になると気が漫ろになっていたようだった。

 炎帝はゆっくり後ろを振り返った。

 そこには、ここに居るはずのない人界の青年が立っていた。

 その青年はよく見ると、両の目の色が違い、しかも片目は義眼のようだった。

 その義眼は、何もかもをそのまま写して、また何ものをも映さない目だった。

 炎帝はしばらくその不審人物を見つめていた。

「男と見つめ合う趣味はないんだがな、俺は」

「そんなもの、ワシにもないぞ」

 炎帝の律儀な答えに、その男は大きな溜め息をつき、髪をくしゃりと掻き上げると、意思の強そうな視線で炎帝を見上げた。

「あんた、炎帝だろ。ちょうど良い、俺は中の姫に用が有るんだ。しかも急ぎのなっ」

 そう言って男は、びしっと炎帝を指差した。

「な、の、に。入り口塞がってて入れねえんだけどっ」

 言われて炎帝は、入り口の真ん前に立っていて、完全に入り口を塞いでいる事に気づいた。

「済まない。いや、しかし、ここは我が娘の住まいだ。どこの誰とも知れぬものは通せぬ」

 炎帝は何故かこの山の封じられ人界から切り離されているはずの場所に人が紛れ込んで、しかも娘に会いたがってる事態に、やや思考が付いて行けなかった。

 しかし、娘を守らねばという本能のようなもので、炎帝は辛うじて拒否を示した。

「どこの誰とも、ね。……そういや会ったことは無かったな。……いや、無かったとしても、そこまで無名じゃねぇんだけどな、俺」

 目の前の青年は俯きぶつぶつと呟いた。

 その内容に炎帝は首を傾げたが、ふと気づいた圧迫感に半歩下がり、青年の回りを見た。

 そこには大きすぎて気づかないほどの神の光が、青年の回りに渦巻いていた。

 その輝きに、炎帝は思い至る神が脳裏をよぎり、慌ててその場に膝まづいた。

「北欧の大神」

「あ〜〜良いから、堅苦しい挨拶は。それより、中に入りたいんだけど」

 炎帝の挨拶を遮り、数々の名を持つ北欧の大神オーディーンは焦れたように言った。

「失礼した、ささ、どうぞ」

 炎帝は非礼を詫びつつ、先に立って娘の住みかにオーディーンを案内した。

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