ソウタの夢 壱
ぼくが一番最初に彼女が会ったのは、子どもの頃だった。
ぼんやりとした不思議な空間。
白いのか黒いのか青いのか、ただ、そこには何も無かった。
何も無いというのは……物理的に無いだけでなく、精神的にも何も無い空間だった。
そう、そんな空間にも関わらず、何故か寂しさも怖さも感じなかった。
その妙な空間で周りを見渡していると、一ヶ所、黒い点が見えた。
何だろうと目を凝らすと、点が人で、どうやら女の人だと分かった。
不思議な空間には距離が存在していなかったのか、点だった人は気がつけば近くに居た。
ぼくには見えないイスでもあるのか、彼女は座って上を向いていた。
その姿は子どもの目であっても、只ならぬ美しさで、ぼくは彼女から目が離せなくなった。
「キレイ……」
彼女はゆっくりとぼくの方を向いた。
ぼくを見た途端、彼女は泣きだしそうな顔をした。
それから、首をかしげると笑顔を見せた。
「綺麗?」
彼女のその言葉に、ぼくは自分がキレイと声に出していたことに気付いた。
恥ずかしかったのか、彼女の余りの美しさに緊張したのか、ぼくは真っ赤になった。
「ふふ、可愛い。貴方、名前は?」
彼女はぼくのすぐそばに立って、ぼくの頬に手を添えて言った。
「ソウタ」
ぼくは緊張で名乗るのが精一杯だった。
彼女はぼくの額に彼女の額を付けて、静かに言った。
「ソウタ、貴方が大人になった頃、また会いましょう」
それだけ言って彼女は音もなく消えた。
ぼくは、彼女が居た辺りに手を伸ばしたけど、手に何かが触れることはなく、やがて周囲は暗くなり、気が付くと自分のベッドの中で、天井に向かって手を伸ばしていた。
「ゆめ……?」
ぼくは上体だけ起こして、自分のおでこを触った。
何となく、そこには彼女が触れた気配が残っているような気がした。