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神様の居酒屋  作者: 所長
14/15

宴 弐

「ミカエル殿、先程は失礼した。失礼ついでに伺って良いだろうか」

 炎帝は画面を見つめたまま、ミカエルに問い掛けた。

 ミカエルは炎帝とムニンのスクリーンを見比べた。

「俺で役に立てるか分からんがな」

 ミカエルは答えると、ちらりと店長に視線を送った。

 店長は頷くと、棚の奥から四角い瓶を取り出した。

 空のグラス三つに、店長はその四角い瓶の封を切ると、注ぎ入れた。

 甘く華やかな香りが辺りに仄かに漂った。

「良い香りだな」

 ミカエルが瞳を閉じ、香りを楽しんだ。

「桂花陳酒ですな」

 炎帝がぽつりと呟き、画面から目を離し、店長の手元を見た。

「ああ、ミカエルから炎帝、あんたへのプレゼントだよ、な?」

 ミカエルは炎帝の方を見ると、片目を悪戯っぽく閉じた。

「選んだのは店長だけどな。で、俺に聞きたいことって?」

 炎帝は再び画面を見た。

「娘は幸せなのだろうか?」

 それは単なる父の台詞だった。

 ただ、そこに問われているのは、後の全てを通しての話だとミカエルは思った。

 人間の生は有限だ。

 仮に片方が先に寿命が尽きたとしても、いずれもう片方にも死が訪れてくれる。

 だが、今画面に映るのは神が人として一時生きてるだけで、神でなくなった訳ではない。

 契約が成されれば、神は神に戻り、永久の時の中に戻ることになる。

 一時の幸せは、永い永い時の中でも幸せとなりうるのか?

 その答えは、ミカエルも知りたいものだった。

 ミカエルは大きな溜め息を付いた。

「答え難いこと聞くなぁ、炎帝さんは」

 ミカエルの溜め息混じりの声に、炎帝はミカエルの方を見た。

 店長も静かにミカエルを見つめ、次の言葉を待った。

「正直、俺は認めたくないんだがな、その幸せを」

 そこまで言うと、一口酒に口を付けた。

「なかなか爽やかな味だな」

「どことなく我が子のような印象の風味だ」

 ミカエルと炎帝の言葉に、店長はしてやったりといった、得意気な笑顔を見せた。

 ミカエルはくすりと笑った。

「自身の幸せは自身にしか分からんさ、究極論だが。なあ炎帝、あんたの幸せの中には、あの娘の笑顔があるんだろう?」

 ミカエルの言葉に、炎帝は頷いた。

「それも、あんたにしか分からん幸せな訳さ。そいつがルールに反しない限り、俺達天界の者には見守る以外、何も出来ないさ」

 炎帝も深い溜め息を付いた。

「仰る通りだ。我もまだまだ鍛練が足りんようだ」

 炎帝の言葉に、店長とミカエルが目を合わせた。

「炎帝さん、それ以上鍛えんのかい?」

「それ以上でかくなったら、炎帝専用の椅子を用意しないとな」

「お、お二人ともっ」

 二人の笑顔に、炎帝が慌てた。

「店長〜お客さん来るよぉ」

 スレイプニルが屋台の回りをぐるりと一周しながら言った。

 ミカエルは立ち上がると、手をかざし遠くを見た。

「あぁ?珍しいな、あれはアヌビスだぜ」

 そう言うと、ミカエルは座り直し、炎帝の方を見てニヤリと笑った。

「炎帝さん、酒強いよな?」

「まあ……弱くはないが」

 不思議そうに炎帝が答えた。

 それを聞くと、店長はずらりと二人の前にウィスキーのボトルを並べた。

「アヌビスは飲むと陽気になって楽しいぜ」

「えっ?」

 炎帝はアヌビスが確か死の神だったはずだと思い出し、陽気になる死の神が想像出来ずに居た。

 だが、この屋台が自分にとって居心地の良い屋台であること、また、どうやら多くの神々の休息の場になっているようだと感じた。

「楽しいのは好ましい」

 そう炎帝が言った時には、アヌビスはもうすぐそこまで来ていた。

「店長〜〜っ酒酒っ」

「おまっ、また持ち込みか?ってか、もう飲んでんじゃねぇか」

「へへ〜良いでしょ?こないだ人界で新しい酒見つけたんだぁ。いけるよぉ、これぇ」

 言いながら、アヌビスはミカエルの背をぽんぽんと叩いた。

「飲んで飲んでぇ。あ、そちらさんは初めましてだねぇ〜飲んで飲んでぇ」

 にこやかにアヌビスはミカエルと炎帝の間に無理矢理入ると、ストンと座った。

「さあ、店長。どんどんいこう〜」

 声をたてて笑うアヌビスに、屋台は一気に陽気な雰囲気に包まれた。

 炎帝は時々、ムニンの映し出す画面を見やりながら、酒をすすめた。




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