序
今回居酒屋に訪れることになった青年の話のモデルになっている神やら歴史上(神話?)の人物はあえて名前を出していません。
もちろん居酒屋に訪れる面々も有名な神様だったりします。
とはいえ、あくまでファンタジーですので、その人物との相違点などには目を瞑って「これはこれ」としてお読みいただければ幸いです。
「サツキ君、マー君、店長は?」
ナナコはカウンターの中と隣の席を交互に見て訊ねた。
「さあなぁ、サっちゃん何か聞いてないの?」
マサヒコはカウンターの中でトマトと山芋を手際よくカットしてるサツキに声をかけた。
「さあね」
ちらっとマサヒコとナナコに視線を送り、短く返事にもなっていない返事をして、サツキは視線を戻し、目の前のサイコロ状になったトマトと山芋をボールに入れた。
「サツキ君、それ、今日の突き出し?」
調理場をコの字型に囲むようになっているカウンターの、ナナコとマサヒコとは調理場を挟んだ真向かいの席に座っていたミナミがサツキに声をかけた。
「そう」
今度はミナミにチラリと視線を送り、サツキは短く返事をして、また作業に戻った。
事前に合わせておいた調味料をボールに入れ、混ぜ合わせると、並べた小鉢に盛り付けていく。
小口切りの万能ネギをのせ、更にひとつまみの磨り下ろした生姜をちょこんと乗せ出来上がった小鉢を、サツキは挨拶をしながら客の前に置いていく。
ミナミの前に小鉢を出す番に、小鉢を手に持ったままサツキは少しの間、中空に視線をさ迷わせいたが、ふうと息を吐き出すと、サツキは小鉢をそっと置き、ミナミの目をじっと見た。
「トマト、最近食べてないって言ってたから」
それだけ小さく言うと、サツキはミナミの前から離れた。
ミナミは驚いて、次々と挨拶をしながら突き出しを提供しているサツキを目で追いかけた。
そして端のマサヒコとナナコの前にサツキが来た。
「さっちゃんもスミに置けないなぁ」
サツキが来るのを待ってたと言わんばかりに、ニヤニヤしながらマサヒコが言うと、隣のナナコがマサヒコの腕をペシっと叩いた。
「そういうこと言うから、サツキ君に相手されなくなるのっ」
そんな二人のやり取りは知ったことではないのか、ただただ馴れているのか、相手をすることなく、途中で受けた注文に取りかかるため、サツキは冷蔵庫を開けた。
「それよりね、サツキ君もマー君も店長ホントに知らない?」
ナナコは再び訊ねた。
「俺は何も聞いてませんよ、マサさんが知らないなら誰もあの人の行方は分からないでしょうね」
「オレも今日は聞いてねえって、何か用か?」
マサヒコはカウンターに肘を付き、やや前屈みになってナナコの顔を覗き込んだ。
ナナコはちょっと首を傾げると、マサヒコを真っ正面から見て微笑んだ。
「そうなの。とっても大切な用事よ」
そう言ったナナコの笑顔に、マサヒコは一瞬息を飲んだ。
「サっちゃん自転車は?」
マサヒコは平静を装いながらナナコから視線を外し、サツキに問いかけた。
サツキはフライパンにバターを溶かしながら、天井を見上げた。
「確か、有った……うん、有りましたよ。そもそもあれに乗るのは水曜だから」
「そうだよなぁ……こうも気配がないのも珍しいよなあ」
サツキはそれには答えず、フライパンにケチャップを入れ水分を飛ばすと、茹でて水気をしぼったホウレン草を一気に入れてフライパンを振った。
「あのっ」
ガタッと音たてて、マサヒコの斜め前に座っていた青年が立ち上がった。
その突然の行動に、店に居合わせた客の視線が青年に集まった。
「あのっ。店長、来ますよね?」
青年はマサヒコとサツキを代わる代わる見ながら訊ねた。
「アンタ店長に用事?」
マサヒコが青年に訊ねると、青年は少しの間俯き、何かを決心したのか顔を上げた。
「実は……」
初投稿です。
国語が苦手な私が、今何故この分野に手を出したかはさておき、書いてしまって、投稿しちゃったものは仕方ない(?)。
今回のストーリーは、そもそもの考案からは隋分と離れた所から始まってしまいました。
なぜこうなったかは正直分かりません。
そもそもの考案では、天界の神様と天使のストーリーだったのですが、どうもうまく構想が練りきれず、こんな舞台設定になりました。
活かしてるのは、神様が居酒屋をしているというところだけ。
ストーリーが動き始めたのは、店長がオーディーンに決定した途端でした。
「酒」といえばバッカスのイメージが強かったのですが、どうもこの店の店長には向かないなあと思い、いろんな神様をあたっていたところ、オーディーンが面倒臭そうに立候補してくれました。
そこからは、登場人物の動きを追いかけるように書いていました。
こんなこともあるものなのかなあと、いまだに?の嵐です。
次回作も神様の居酒屋です。
遅筆に付き、次はいつになるかは不明ですが、よろしければまたお会いできることを切に願い後書とさせていただきます。