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童話パロ

私は魔女

作者: 葡萄鼠

童話パロ第3弾。今回は、魔女に視点をあててみました。

 何が事実で、何が虚実で、

 何が実像で、何が虚像で、


 私はいったい、なんなのだろうか。


 幾度答えを探しても何も見つからない。

 私が抱く疑問は未だかつて解かれることはなく、私を緩く縛りつける。

 見上げれば蒼い(くらい)世界に燈る、一つの白銀。

 幾度も形を変えては翻弄する妖しの輝きに、私は何度でも魅せられる。

 眩む輝きに嫉妬を覚えることも、見えぬ光に安堵を覚えることもある。


 私のたいよう、どうかこの先を迷わぬように照らして。

 私は一人。一人の寂しさは平気だけど、道に迷うのは怖いから。

 お願い。どうか、この先を照らして下さい。


 そっと手を伸ばせば、ひたと触れ合う。変わらぬいっそ心地いい冷たさは、私の微かに残る熱を奪い感覚をマヒさせてゆく。このまますべてが奪われてしまえば、答えはおのずと差し出されるのではないだろうか。――そんな、錯覚ともいえる希望を夢見てしまう。


 きっと私は救われる。

 救いによって、私は解き放たれる。

 そう願い続けている。


 見える向こう側の世界では、動かぬ血潮に濡れた影が巨壁を造っている。

 近づく、忍ぶことすらしなくなった息づかいが聴こえて来る。

 見えぬそれの正体はいくら近づいてきても、まだ見えぬ。


 ――少女は、わらう。


 鏡の向こうの少女は、愛おしさを満面に、笑みを浮かべ、己が愛しき伴侶へと、わらいを捧げた。

 視界に映るのは、酷く奇妙に笑う血塗られた男の顔。掲げられた鈍い銀刃は、本来の色さえわからぬほどに紅化粧をし。深い煌めきを秘めた瞳は、狂気の炎が滾っている。

 少女は静かにただ目に映るものをみつめ、無邪気に紡ぐ。

「あなたは、受け入れたのね」

 その、理という名の運命を。

 銀刃の行く末は、己の白い素肌だと知っていても止めることすらしない。少女もまた、一つの運命を受け入れたのだ。

 少女としての命の灯が尽きる寸前。少女は鏡のむこうに幸せを浮かべた。



 鏡の向こうの貴女は微笑む。かの、聖母のように慈愛深く、慈悲深く、救済を捧げる。その瞳には、ただただ穏やかな灯かりが揺れていた。

 今は手の届かない温もり。それでも忘れたい想いは、深く根付いて私の心を侵食していく。


 愛されると信じて嫁いだ先。

 夫は一国一城の王となった。

 美しい妻に、美しい娘。

 富も権力も絶世の美貌を持った妻。

 その血を濃く受け継いだ娘。

 望むもの全てを手に入れた夫は、「わたし」のことを忘れていた。

 

 ああ、憎い。

 いっそこの手で殺してしまいたい程、憎い。

 

 愛されると信じていた日々は旅に出ても夫が戻らないまま不安な日々を過ごすことになり。

 いつまでも帰ってこない夫を心配に、探しに出かけた先で酷い裏切りを目にした。

 求婚され、共に歩んだ時さえもなかったものとされ。

 一人森に捨てられた。


 最初はこんな醜い私より、美しい妻の横で幸せそうに笑う夫をみてどこか納得していた。

 私より相応しい人がいて、幸せを手にしている。

 夫の幸せが私の幸せ。

 そう想い、娘へ祝福を与えるために招かれた人たちに混ざって私も城へ赴いた。

 謁見の時、夫は私を見るなり恐怖でその顔を歪めた。


 ――そして夫はこう叫んだ。


「魔女だ! ここに白き魔女ではなく闇にそまりし黒き魔女がいる!」


 私に恐怖と安堵で彩った瞳を向け、憎悪にまみれた言葉を放つ。

 私と生きた日々が汚点とでもいうような。

 私と歩んだ時が憎むべきものであるかのような。

 そんな瞳と響きを私に向ける。


 その時私の愛は憎しみに変わり、夫の望む通り「魔女」になってやろうと思った。

「これはこれは王に王妃様。美しいご息女への祝福を授けるために参上いたしましたのに、そのような言葉は酷いのではなくて?」

 そして私は代々受け継がれるこの血脈に宿る力を使い、周囲の人間の自由を奪い悠然と揺り籠で眠る秘めに近づいた。

「まあ、本当に玉のように美しい姫君であること。まるで遠い日の彼女をみているような美しさですこと」

 私の少女時代を奪い、己のモノとした男。

 それでもそこに「愛」があるならと、受け入れた。

「きっとこれほどまでに美しい姫君であれば、引く手あまたでしょうね。それこそ誰もが憧れる未来を手に入れる」

 優しく、聖母のように温かく、わらう。

「この美しき姫君に、三つの祝福を授けましょう」


 一つ、なにものにも傷つけられないようにイバラの守りを

 二つ、なにものにも惑わされないように心に鍵を

 三つ、なにものにも穢されないように永久の眠りを


(美しき姫君、貴女は私とは同じ道を歩まぬように。私の祝福さえ乗り越えた者がいるならば、貴女はきっと世界で一番幸せなお姫様になる)


 私は誰にも、姫以外に聞こえないように小さく呟き。高笑いとともに、城から姿を消した。

 


 ――誰からも望まれた姫は、運命の王子を得てすべての人に祝福される人生を歩むのはもう少し先のお話し。

 そして黒き魔女(わたし)を滅ぼすために人々が訪れ、炎に身を包まれこの世のどこからも消失するのはそう遠くない未来のお話し。

 私はそれでも幸せで、願いは全て託したから心残りもない。

 

 ――どうか、幸せになってねお姫様。私も来世では、どうか平凡でいいの。平凡で平和な幸せな人生をおくれますように……。








 ――ある国の王城の庭にて。


 偉大なる我らの導き手よ、どうか我らを救いたまえ。

 我らの希望の光をもって、忌まわしき闇を祓いたまえ。

 さあ、今こそ立ち上がらん!

 闇に堕ちし魔の使い手を滅ぼすのは今この時。

 さあ、全ての敵である魔女を打ち滅ぼそうぞ!!

 誰のため!

 我が忠誠を捧げし王のため!

 我の愛しき姫君のため!

 我を慕いし民のため!

 皆を恐怖に陥れ、生き地獄を与えし魔女を今、この時こそ魔女を!


 「「「魔女を!!!」」」


 

 銀刃の剣で砂に変えてみせよう!!!!!!



閲覧ありがとうございます。


誤字・脱字・アドバイス・感想など、何かしら頂ける場合にはぜひとも感想フォームにてお願いいたします。

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文法上誤用となる3点リーダ、会話分1マス空けについては私独自の見解と作風で使用しております

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― 新着の感想 ―
[一言] 切ない!!切ないですよ~!! 王様め、と心のハンカチを物凄い勢いで噛み締めながら、読み進めました。 魔女になってしまった哀れな女が、それでも姫の幸せを願う下りは、本当に胸が痛かったです。 …
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