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君の背中に

「ねぇ快。お昼、どうする?」

「んー。遥の作ったものならなんでも」

 俺がそう言うと遥は、嬉しそうに笑った。俺としては、特に思い浮かばなくて適当に答えただけだからそんな顔をされると困っちゃうのだが。

 まぁ結果オーライということで。

「冷蔵庫見るけど?」

「いいよー。あるものは使っていい」

「ん。承知」

 トタトタと小走りで台所へと向かう後ろ姿は、ちっちゃくて可愛らしい。ぎゅっと抱き締めたくなる。

 俺も彼女も今年で二十歳。そろそろ結婚も視野に入れておこうかなという所存にある。

 今は俺の部屋によんで過ごしているが、同居だって考えている。まぁ全部俺一人でだけど。

 それでも遥が断ることはないだろう。彼女も俺も一人暮らしだし。

 高校生からのバイトで、金は結構貯まっているから先のことは多分どうにでもなる。

 大学の金は親任せになっているのが申し訳ない。

 就職したらちょっとずつでも返していきたいな、とは思うのだが実家にあんまり帰りたくないという気持ちの方がでかい。実際にもう大学入ってから一度も帰っていないし。親父と喧嘩したまま出てきたので会わせる顔がないのだ。これで学費を払ってもらってるんだから本当に申し訳ない気持ちで一杯だ。

 と、ここまで近い将来の計画をたてているのだが、なかなか機会が廻ってこない。

 こんなことを考えている事が遥に知れたら、笑われるんだろうな。俺の彼女はそう言う人間だ。

 瀬田遥とは、高校生からの知り合いだった。

 二年の時隣の席になったことがきっかけで話すようになった。

 授業中に俺が鼻歌を歌っていたんだっけか。そしたら遥が、

「ミスチルか......いい趣味してるね、君」

 あのときは驚いた。

 いきなり話しかけてきたのもそうだが、まさかこの歌を知っているとは。彼女は歌を聞かない方だと思い込んでいた。

 聞けば遥、ミスチルのファンらしい。CDは殆んど持っていたし、俺とも話があった。俺もファンだから。

 昔を思い出している間に出来たらしい。二つの丸皿を持って彼女が戻ってきた。

「お待たせ。今日はオムライスにしてみましたー」

 茶髪のショートボブを揺らしながら笑顔を向ける。ちなみに染めているわけではなく、自前の茶色だそうだ。

「頂きます」

「はい召し上がれ」

 銀のスプーンを卵に差し込むと、フワッとした感触と赤いご飯がこんにちは。すくって口に入れると、トロトロと程よくとろける。

「美味い!」

 彼女の料理の腕は俺の知る限り一番だ。何を作っても美味くしてしまう。まるで魔法のようだ。

 俺も料理は出来る人だが、やっぱり遥の方が格段に美味い。

 大盛りオムライスは、五分足らずで俺の腹に収まってしまった。遥はと目をやると、ちっちゃくすくったご飯を口へ運んでいた。まだ半分も残っている。

「急がなくていいぞ」

「はいよー」

 そう言ってまた笑う。

「ケチャップ付いてます」

 俺の顔に指を伸ばしてきた。ぴっとその指を俺の口元に滑らせ、そのままなめる。

「もう......子供ね」

「ほっとけ」

 とても暖かく、ついつい浸ってしまうこの空間がとても大切で、俺はやっぱり遥が好きなんだなと改めて思った。




 夕方までだらだらしていたが、夕飯も家で食べるらしいので買い物に出ることにしたのだが。

「遅いな」

 リビングで待っててと言われてからもう二十分は待っている。

 遥は洗面所で支度していて、俺はなんでこんなにも時間が掛かるのか不思議に思っていた。

 遥なら、別に化粧しなくても問題ない気がする。素っぴんでも可愛いぞ。

「完了ー」

 ようやく出てきたのは、そこからもう十分程たってからだ。

「花柄ワンピースに着替えてみました!」

「おおぅ......可愛い」

 なんともまぁオシャレをしたものだなと。

 青の芝生に色とりどりの花が咲いているような感じだ。派手すぎず地味すぎず、とてもよく似合っている。

「ではでは。行きましょうか」

「そうだな」

 家を出ると、空はもうオレンジ色に染まっていた。

「川沿いでも歩きますか」

 遥が提案。

 こういう時の川沿いは、俺は好きだ。

 川の中へ沈む夕日なんてロマンチックでちょっと気恥ずかしい気もするのだが、遥とはよく散歩で訪れる。

 ゆっくりと並んで歩いているとおじさんランナーや高校生らしき人とすれ違ったりする。

 俺は何故だか、そんな、何ら変哲もない風景がとても好きだ。遥は「おかしな人ね」と笑うが、それでも毎回付き合ってくれるのだから本人もそれなりに楽しんでくれているのかなと思ったり。

「快ー」

「どした?」

 遥は「ヘヘヘ」とニヤけると、

「手、繋ごっか」

 そう言い、手をこっちに寄せてきた。

 俺は差し出された手に、自分の手を絡ませる。柔らかい遥の手は温かくて優しい。

「ふんふーんふふーん」

「ミスチルか?」

「正解。流石だね」

 遥はなんだかご機嫌らしい。鼻歌なんて歌い始めた。

「これ聞くと、昔の事思い出すね」

「言うほど昔じゃ無いけどな」

「むっ......そこは乗っときなさいよー」

 じと目で睨み付けてくる。が、何かを思い付いたらしい。その目はすぐに優しい眼差しへと変わった。

「快はうちの妹に似ている気がする」

「妹?」

「うん。ちょっとひねくれてて、可愛いんだ」

 それは俺がひねくれてて可愛いと言うことなのだろうか。

「結構相性いいと思うよ」

「へー」

 遥の妹ならさぞかし可愛いんだろうな。なんて考えていたら、

「だからって快、変なこと考えないの」

 なんだか見透かされている気が。

 遥はもう一度俺に向かって微笑むとその後は無言で、歩くことに集中した。

 ほんの気持ち僕の前を歩く遥。

 風で髪が靡かれ、白くて美しいうなじが見える。それと、小さい背中。


 知ってる遥?


 僕は君に恋をしているんだよ。


 いつかは二人結ばれて、こんな風景を日常にしたいなんて考えているよ。

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