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小言
『輝はどうしていつもこうなの!』
先程、血相を変えた佳奈子に言われた言葉は、聞きなれた小言だった。
『ちゃんと食べなきゃダメだよって何度も言ったでしょ』
食べてたよ。惣菜パン......
『洗濯物ためるなって、やり方も教えたよね』
そいえばそうだったかも。見てないや。
籠には入れてたよ。
『電気も消して寝ないと勿体ないでしょ』
あ、忘れてた。意識してないと意外に難しいな。
ふふっ。
何だろう。小言を言われてる筈なのに、怒られている筈なのに、何故だか笑ってしまうよ。
佳奈子
あぁ、佳奈子
『私を置いてかないでよ』
ごめんよ佳奈子
『ずっと一緒に居てよ』
君の言うことを聞かなくて
『まだ何も始まってないじゃない』
約束もろくに守らなくて
『これからまだ沢山やることがあるのに』
こんなだらしのない、しょうもない僕を
『好きだって、言ったじゃない』
愛してくれて、ありがとう
意識が途絶えるまで、手の温もりと、佳奈子の声はなくならなかった。