机の上の
小学生の頃の話。
「お兄ちゃん! 待ってよ!」
てくてくと走りながら俺のところまでやって来て、袖を掴むと、我が妹は言った。
「私、大きくなったら、お兄ちゃんのお嫁さんになる!」
ニコッと笑ったその顔はとても可愛らしくて、ついつい頬っぺをつついてしまう。
「頑張って大きくなれよ」
俺は恥ずかしくて、少し素っ気なく返事をした。
そして月日は流れた。
「なぁ、こんな時間にどこ行くんだ?」
「うっせーよ。関係ないだろ」
妹は、勢いよく飛び出していった。机の上のデジタル時計は、9.00pmと伝えている。
俺は大学生に、妹は高校生になり、親は仕事で海外へ。
今は妹と二人暮らしだ。
その妹も、最近は反抗期なのか、俺とまともに話そうとしない。
子供の頃を覚えている俺としては、少し寂しいのだ。
「あんなに俺にくっついてきてたのにな」
こんな遅くに何をやっているのだか。
心配しながら、そしてちょっと泣きながら、俺はベランダで星を眺めた。
学校が終わり、本屋によって家に帰った。
多分家には誰もいない。ただいまをお帰りで帰してくれる妹は、出掛けているだろう。
ガチャリと鍵と一緒にドアを回す。
ドアを開けて――――
............
「ただいま」
そう言って家に入った。
もう、妹は一人で生きていける。そのくらい嫌と言うほど分かっている。
それでも、いつまでも可愛い妹でいてほしいと思ってしまう。また普通に話して、笑顔を見せてほしいと、我が儘を言ってしまう。
そんな思いも、もう押し付けるのは止めようと思っていた。
だから。
――――お兄ちゃん、誕生日おめでとう!
机の上に置かれた紙袋と手紙を見て、俺は顔を綻ばせて、ぐじゃぐじゃになるまで泣いた。