電車待ち
寒い寒い、凍えるような駅のホーム。
周りにはもう誰も居なくて、ただただ静かな暗闇。
月明かりに照らされながらダウンのポケットに手を突っ込み、何度も握っては開くを繰り返す。
そうやって電車を待つ時間はやけに長くて、1分が今の僕には永遠と続くのではないかと不安が涌き出た。白く冷たく、どこまでも純粋な雪と一緒に僕の心に降り積もる。
線路の上は銀世界。
遠くまで見通すことは出来ないけれど、多分ずっとずっと、何キロも何十キロもこの世界が続いているのだ。そう思うと少しだけ笑えてきた。
腕時計を見ると、10時10分。
もしかしたら雪で電車が遅れているのかもしれない。天気予報によると、今年最大の大雪だそうだから仕方ないといえばそれで終わりなのだが。
ふぅと吐いた息はすぐに白く色を変え、天へと上って行く。それを目で追っていると、月が見えた。
丸く大きいその月は、雪のせいで視界が不充分でもくっきりとその色を主張している。
綺麗でつい見とれて、何故だか悲しくなって涙が頬を伝った。
あの日もこんな月の夜だった気がする。
雪は降っていなかったけれど、こうして君は遅れたんだ。僕は何時間も君を待って、風邪を拗らせた。結局君が僕の前に現れることはなくて、その時もこうやって泣いて。
今日も多分そうなるのだろうと、また家で枕を濡らすのだろうと、君がもうこの世に居ないってことを実感するのだろうと、そう思う。
それでも僕は待つ。いつまででも待つ。
桜が舞う春も。蝉が五月蝿い夏も。夕暮れが綺麗な秋も。君が消えた冬も。
いつまでも待つ。
いつまでたっても来ない君を、泣きながら。