幽霊の暇つぶしー五
懐かしい、というのは、当然生前のことである。彼の家族構成は、彼自身に加え、父、母、妹の四人だった。
はっきりと思い出せないのが心苦しいが、奔放な妹に振り回されていたのは記憶している。
皆瀬の雰囲気が、そんな妹にどことなく似ているような気がした。主に性格が、だ。実際は年齢的にももっと下だったように思うが。
そんな感慨に耽っていたからだろうか、雑談をしていて、ついうっかり、ポロリと須郷が漏らしてしまったことがあった。
ワンテンポ遅れて、焦りながら訂正したときには、もう遅かった。
「へえ、ここ以外にも普段使ってる部屋がある、ねえ」
一人減った。
皆瀬がその真偽を確かめるという名目で出て行ったからである。
もう一人減った。
それを追いかけて、須郷もまた、部屋を出て行ったからである。
光一と河谷が残っていた。どことなく、気まずい空気だ、光一のほうはそわそわと落ち着かない、横の河谷の顔色を伺おうとするも、俯いていて知ることはできなかった。
実際のところ、光一は出て行った二人を追いかけたかったのだが、一人を残して出て行くことに少しの抵抗を覚え、ここにいた。
「行ってくれば?」
さっきまで俯いていた河谷が突然顔をあげてそんなことを言ったので、光一は驚かされた。
それに気付くか否か、河谷は続ける。
「私はまだちょっと気分悪いし、行ってきなよ」
「え?うん、ありがとう」
「まあ、面白そうではあるんじゃない?私はあんまりやろうとは思わないけどさ」
「面白そう」とと言うのはつまり、先程須郷が漏らした、倉庫のように使っている部屋の存在のことである。何が面白いのかと言えば、皆瀬曰く、「男が使っているような家の倉庫にいかがわしいものの一つや二つがあるに違い無い」とのことだった。
光一が出て行った、河谷はそれを見届け、そして再び、眠りにつくことにした。
皆瀬は、この古い洋館を走っていた、その顔には、笑顔を浮かべている。足を動かしていないから、どちらかと言うと滑っているといった方がいいかもしれないが。
それを、須郷は追いかける。流石に皆瀬と違って楽しそうではないが、うんざりしているというよりも、慣れきっている、という印象を受ける表情である。
「ははは、遅い遅い!」
「皆瀬ちゃん?壁を抜けるのは反則ってもんだろ!」
最初は普通の追いかけあいだったのであるが、壁を透ける以上、皆瀬が須郷の視界から消えるまでに、そう長い時間は掛からなかった。
走るのをやめ、歩きに変える。
当の倉庫の前に居座るのもいいか、とも思ったのだが、流石にそれは大人気ない。
そもそも、当の倉庫にだっていかがわしいものがあるわけでもないのだ。大衆の目にさらそうと思うものでもないが。
少々の諦めを抱きつつ、彼は先程の部屋へと戻ることにした。




