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幽霊の歩く道  作者: sacon
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幽霊の散歩道

 事は、少年と別れて数時間後に起きた。

 彼が当ても無く美しい空を空中散歩をしているところを、窓から外を眺めていた女子高生に見られたのである。


 丁度彼が通ったのはマンション窓の前で、女子高生は実に見事なタイミングでベランダの外に出ていて、彼のことを目撃したというわけである。恐らく年は彼と同じかそれ以下だと思う。生前の話ではあるが。


 まさか彼も一日で二人と会話することになるとは思っていなかった。

「……私の知らない間に人類はタケコプターの開発に成功していたの?」

 霊感ある人からすれば、空を自由に動ける幽霊はただのトンデモ人間であったようである。


「えーと、流石にタケコプターは開発に成功してないんじゃないかな」

「そう、じゃあ何でこんなところに居るの?そもそもどうやって飛んでるの」


 どう見たって不自然だろう、と女子高生は続ける。彼女は、少年のように自分を見ただけでは霊だと認識できないらしい。

 とりあえず質問には答えた。


「いや、なんでって、お前が呼び止めたんじゃあないか、あと俺は幽霊なんだよ、だから空中を……飛んでると言うより、歩いてる」

「幽霊?冗談はやめて、今は昼間じゃない、それに幽霊って一箇所から動けないものじゃないの?」

「まあ、うん、否定できないな、俺も生前はそう思ってたし。けどまあ、今こうやって動いてるしなあ、そういうのは地縛霊だけなんじゃないか」


 浮けることが分かって、どれだけ浮くことができるのかと思ったら空を歩けるし、というか足あるし。彼自身の生前の幽霊観だってぶちこわしである。

 しかし、さっきの少年が俺を人目で幽霊だと見破っていたのに、この女子が見破れないのはどういうわけだろうか。あれか、霊感が強い弱いで幽霊かどうか見破れたりするのだろうか、となるとあの少年は相当に霊感が強く、こちらは弱いという事であろうかのだろうか。少年の方は以前から見たことあるみたいな口ぶりだったし。

 

 となれば、生前含めて俺が知っている中で一番幽霊に関する知識を持っているのはあの少年だろう。俺はまだ霊になったばかりだから同業者に会ったことは無いし、自分に霊感があったわけでもないから、まあどうとも言えないが……と彼は思う。


 唯一分かる事は、少なくとも彼は幽霊らしい幽霊ではないということだった。

 だって普通空中を人間が飛んでたら気付くだろ。けれどしょっちゅう飛んでいる俺が他の霊と出くわさないのはあまり飛ぶ幽霊、及び飛べる幽霊が少ないのだ。

 彼はそう決め付けた。


 それから、なんとなく気になって、聞いてみた。

「なあ、俺ってそんなに幽霊らしくないのか?」

「ごめん、私も他の幽霊なんて見たこと無いからどこまでが普通なのか分からない、君は、強いて言えばイメージしてたものと何一つ共通点が無いし、人間に不可能なことしてるあたり、人間じゃないことは実証されてるんだけどね。けど、間の前を人間が通った時は驚いたけどね、どんな不審者かって」


 彼に対して抱かれている印象は、幽霊よりもトンデモ人間に近いようである。少年はどうやって幽霊かどうかを見極めてるのか聞いておくんだった、というか今度会ったら聞いておこう。なんて考えながら、少年にあった辺りのことを思い出す。

 そうだ、分かりやすい幽霊の証明法があった。


 彼は自身の思いつきに従い、手を差し出す。手を差し出す。

「触ってみろよ、多分無理だ」

 女子は無言で触ろうとする、透ける、空振る、掴もうとしたが空を切る、勢い余って腕が宙を舞う……

 そのうち掴もうとするのをやめていた。なんだか掴もうとしている様が面白くて、つい笑ってしまった。というより、同年代の人間との何気無い会話すら久しぶりで、何かと楽しい。

「わ、笑うな!」


 ちなみにこの会話、ベランダで行われているのである。つまり何が言いたいのかというと、隣の部屋に筒抜けなわけである。

「えーと、河谷さん?どうかしたんですか?」

「い、いえ、何でも」


 筒抜けということは、こうして不信に思われるわけである。今声をかけた隣人が立ち去り、いまだ笑いをこらえている俺に対し、怒りの目を向けてきた。

 というか、こいつ河谷って苗字なのか。

「そう怒るなよ、河谷さん、てかあんた面白いな」

「もとはといえばあなたのせいじゃない……ここで話していてもまたあの人くるだろうしどうする?暇ならもうしばらく話でもする?」


 最後の言葉は華麗にスルーされたようである。

 しかし、河谷というのが、彼女の名前らしい 

「そういえばあなた、幽霊なのよね?壁とか透けて通れたりするの?」

「なんだか分からないが、壁は透けて通れない。後塩なんかも置いてあるとそこは通れないな」

「本当に幽霊なのかそうじゃないのか分からないね……」

 彼女はそう言って笑った。


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