エピローグ――道の果てに
「間に合ってよかったなあ、ほんとに」
光一が口を開く、場所は先ほど河谷が見つけていた、所謂穴場だった。
ひゅう、と音を立てながら、光の筋が空へと向かっていき、弾ける。
一つ目が弾けた事を皮切りに、二つ三つと増えていき、間もなく空を光が埋め尽くした。
「綺麗だな」
月並みな表現だ、と須郷は思う。実際にそうなのだから仕方ない。
「うん、最後に見れて、よかったと思う」
分かっていた事だとは思う。未練を果たせれば、幽霊は消えていくだけ。
「もっと、色々できればよかったけど、ここまでか」
「うん、でも、いいの」
諦めとは違う。言うならば。満ち足りているような。
「最後の最後が幸せだったから、もういいの」
「そっか」
何を言おうと思ったのか。けれど、今更言う事もないだろう、と須郷は思った。
花火は集大成に入る。音は単調でありながらその頻度を増し、光は夜である事を忘れるほどで、この先にある不安を全て忘れさせるような錯覚に駆られた。
全ては錯覚に過ぎない。幻想の時間は終わるものだ。
花火が終わった時、丁度この世につなぎ止めていたものが消え去るように、明美は居なくなっていた。
自分は幸せだと、彼女は言っていたのを、須郷は思い出した。
本当にそうだったと、自分は信じてもいいのだろう。見送りは終わった。未練も晴れた。
今この場で消えるのもおかしくは無いだろう。けれど、そのような予感は感ぜられない。
ここから始まるのはちょっとしたロスタイム、いつ終わるか分からない時間。
「さて、帰るか」
「そうだね、また」
「うん」
須郷は二人の顔を見なかった。
今度こそ未練がないように、この時間を過ごそう。
そんな思いを心に抱いた。




