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幽霊の歩く道  作者: sacon
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13/17

彼女からみたもの――二

 この時間帯、この場所には人は殆ど訪れない。そのことは知っていた。

 だからまあ、誰にも邪魔されず、墓の掃除に専念出来ると言うものである。

 枯れてしまった切り花を抜き、水を柄杓で掬ってかけ、汚れを洗い落とす。柄付き束子で残った汚れを落とす。

「ま、こんなもん。かな」

 最後に新たに買ってきた切り花を備える。

 一月前までは、こうして兄貴の墓を洗うことになるなんて、考えもしなかったというのに。 

 ああ、まさか、一ヶ月も他人のために食事を作らなくなったりするなんて事、考え付かなかったし、家に戻った時に声をかけても返事が来ないなんて、これまで考えてはこなかった。

 溜息をついた。作業は終わりだ。道具を片付ける。


 岐路に就こうとしたところで、見知った顔に出会った。

「あれ?河谷の姉ちゃん?」

「えっと、光一君?」

 予想だにしなかった。何せ今は普通なら学校がある時間に筈だし、私がここに居るのも、家族を亡くした、親が忙しくてやらねばならぬ事を大量に済ます必要があったが故に、である。

「学校は?」

「今日は早く終わったんだ」

 時刻は午後を少し回っていた。昔良くあった、理由は良く分からないが少し早く帰れる日、と言うやつだろう。

「で、何してるの?」

 見れば周囲はなんというか、大の大人たちが力仕事に勤しんでいるのである。会場設営か何かのようだが、今日は何かイベントでもあっただろうか。

「今日やる花火大会の準備だよ!姉ちゃんも来る?」

 自分の周りのことばかりで知らなかった、今日は花火大会だっかのか。 

 少し考えて。

「そっか、時間が出来次第、行こうかな」

「よっし、後は兄ちゃんに声をかければいいかな」

 兄ちゃん、というと、須郷のことだろう。私からも見たら伝えておく、と言って、彼とは別れた。

 

 太陽が雲によって隠される。それでもなお、夏の暑さは止みはしない。

 花火大会、去年までは何時やるのかなんて知っていたし、行きもした。例年行っていたことにさえ気付かないほど、今の自分は周囲のことを見ていなかったのだろうか。

 自分の周りが全て静寂の中にあって、動かなかった。

 それに伴って、私も、止まっているのかもしれない。


 くつろげる時間、と言うのは、本当に貴重である。まして、この一ヶ月間、殆ど心休まる暇はなかったのだから、尚更だ。

 漸く寛げると思っていたところに、余計な拾い物をしてしまった。マンションの前で、ついうっかり発見してしまって、声をかけたのがまずかった。

 まさか部屋の中までついてくるとは。 

「ねえ、私はゆっくりしたいんだけど」

「そうなの?ごめん、私は久々にテレビ見たい」

 幽霊と言うやつは、こいつらには気を遣う、とかそういうのはないのか。始めて須郷を見たときは好奇心から色々試したけど、今は別に試そうと思う気分じゃない。

 そういえば、須郷を見たのは丁度兄貴が死んだ後だったわけだから、私が幽霊を見ることが出来るようになったのは兄貴の死後、ということなのかもしれない。

「ああ、そう言えばあんたは花火大会来るの?」

「え?ああ、あの光一が行ってたやつかな」

「それそれ、折角だから来なさいな」

「姉ちゃん。友達居ないの?」

 おいこら。なんて事を言いますか。いやまあ仕方のない事ではあるか。上手い事説明できる感じはしないが。

「ちょっと疎遠なのよ」

「それって友達いないを言い換えただけじゃないの……」

「仕方無いじゃない、兄貴が亡くなって色々切羽詰まったまま夏休み始まって、なんかこう連絡するのが気まずくなってるんだから」

 元々そんなに交流が多くは無かったものの、夏休み中殆ど一人で過ごすことになるとは考えていなかったが。

 そう考えてみれば、皆瀬にしても須郷にしても、出会えたのはよかったことだったのかもしれない。いつまでも引きずっているわけにはいかなかった事を踏まえても。この交流は、いい薬になったように思う。

 須郷と言えば、だ。先ほど光一君からは聞き逃した事が一つあった。須郷に直接聞いてもいいのだが、正直遠慮したいし。幽霊の彼女なら何か知っているだろうか。

 ニュースを垂れ流しているテレビから体を背ける。

「そういえばさ、あんたらって、生前と見た目違ってたりするわけ?」

「何でそんなこと聞くの?……幽霊の姿って言うのは、その本人のあるべき姿をとることが多いと思う。まあ、私がそうだったからなんだけどさ。死ぬ直前は、私、こんな感じじゃなかったから。例えば顔とかが違うってことは、相当生前の姿を嫌ってたとか」

 なるほど。まあ、ふざけた想像ではあるし、違うという事にしておいた方がいいのだろう。

「そっか」

 それからしばらくテレビをぼんやりと眺めていた。

「じゃあ私はそろそろ」

 ニュースに一区切りがついた辺りで、そう言って、皆瀬は出て行った。

「花火大会、来なさいよ」

 そう言った声は、聞こえているのかどうか。

 少し疲れた。寝て起きた辺りで多分丁度いい時間になっている事だろう。

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