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3/6

演技:パフォーマンス



「………」


部屋には、呆然と立ち尽くす俺と。


「もしゃもしゃ、ぐちゅ、ぶは」


不可解な音を響かせながらみかんを咀嚼する女の子が残された。

俺の頬を汗が伝う。

ヤバい。大変なことになった。


「ふぅ…」


一旦落ち着こうと座布団に座る。目の前にはちゃぶ台とみかんがあり、女の子がいる。


これはいったいなんだろう。話しかけづらいと言うか、気まずいと言うか…。

あぁ!!と頭を掻きむしる。

俺は初恋の女の子と二人っきりになった中坊か。自分だけ意識しちゃってて鈍い彼女に話しかけれないでいる、あの空気か。

この場合鈍い女の子じゃなくて、大変フリーダムな子供だが。


「あー…」


そうは思っても話しかけなければ始まらない。勇気を出して話しかけてみた。


「みかん、美味いか?」


「………」


ハイ、スルーですか。そうですか。

ちゃぶ台に頬杖をついて、ひたすらみかんを食べ続ける子供を死んだ目で見守る。

はぁ、思わずため息がでた。

ぶっちゃけた話、生まれてこのかた子供と関わったことが無いのだ。たから子供に対する免疫がない。接し方がわからない。

まぁ、いわゆる苦手というわけだ。

さて、どうしたものかと半ば諦めながら思考を展開していると、ごっくんと何かを飲み込む音がした。


「可でもなく不可でもない」


「へ?」


突然言葉を発した子供に、思わず間抜けな返事をしてしまった。

可でもなく不可でもない?何のこっちゃ。


「みかん」


「あ?…あぁ、」


俺の質問に答えてくれたのか。だいぶ時間差があったが。否、さっき応えてくれなかったのは、口の中に物が入っていて、ただ単に喋れなかっただけではないだろうか。だったら話しかけるタイミングを間違えたこっちが悪かったんだな、猛省しよう。少し大げさか。



それにしても。


「可でも不可でもない?」


「うむ。特別不味くも、飛び抜けて美味しくもない。つまり」


微妙。鋭く吐き捨てるように首を竦めながら少女が言った。否、その口調、仕草は少女ではなく、まるで大人の女性のようだった。少し高飛車な。

あれ?子供…だよな?見ためは小学四年生くらいだが、あまりにも…。最近の子供はみんなそうなんだろうか。


微妙と言いながらも、籠に入っていたみかんを全て平らげようとしている。


「そんなに腹減ってるのか?えっと…」


そう言えばこいつ、名前なんて言うんだ?社長も名前呼ばなかったし、紹介もされなかった。それどころかこの子に関する情報を何一つ教えてもらっていない。というか…。


見ず知らずの少女と同じ部屋で過ごせと!?


「………」


いやいやいや。無理だろ!! 一瞬想像したけど無理!! まえにクラスメイトの野郎がそんな生活したいっていってたが、俺もそれに同意したけど!! やっぱ無理があるって。だって俺高校生だもん!!


「さっきから、何百面相してる」


「あ、いや」


「しかも台詞を途中でブチって。何が言いたい」


明らか不満そうに少女、否、彼女が眉を寄せた。もはや子供には見えない。


「えっ…と。き、君名前は?」


若干つっかえながらも言う。

やった! 言ってのけた!

心の中で、掴みにくい彼女に対してのガッツポーズをとる。


「普通は自分から名乗るだろう。常識が無いのか」


何かが音を立てて崩れ落ちた。

彼女の言葉はごもっともだ。なんだか彼女の方が大人な気がしてきた。黙りこくって静かに肩を落とす俺。

二人の間を繋ぐ沈黙。それを破ったのは、さっきまで大人びて見えた少女だった。


「ぷひょっ」


とっさに、自身の小さな手で口を塞いでいる。やべ、なんて小声で言ってる。丸聞こえだ。というか、なんだその吹き出し方は。


「しどろもどろになってやんの。演技なのに」


演…技?


「途中で笑っちゃうなんて、あちしもまだまだだなぁ〜」


両腕を組んで、うんうんなんて言っている。さっきとはえらく違く、子供っぽい。雰囲気も仕草、口調も。

え、ちょっと待て。


「演技…だって、今のがか?」


「そ、演技だよ。上手かったでしょ?」


無邪気に俺に言う少女。ほんとに演技だったのか? だったとしたらこの子は子役なのだろうか。


「違うよ」


俺がわかりやすいのか少女の観察力がすごいのか、考えていたことに的確に読み、否定した。


「あちしはね、子役なんかじゃない」


真っ直ぐ目を見据えられる。俺は、何も言えない。


「ただのピエロ。道化師だよ」


「ピエロ…?」


サーカスにいるあのピエロのことだろうか? それとも…。


「ねぇ」


少女を見る。その子の目はどこか一点を見つめている。

それはなんだか別の世界を見ているような目で、ひどく不気味だった。





「いい匂いがする」



指さされた場所に目を向けると、そこには俺が食べ損ねたカップルラーメンがあった。そう言えば忘れていた。


「食べていい?」


少女に視線を戻した。完全に獲物をロックオンした瞳はキラキラしている。


「…いいよ」


物凄い瞬発力でラーメンを取りに行った少女。そんなに腹が減ってるのだろうか。



ちいさな道化師の眼下にあるカップルラーメン。その面からはもう湯気は出ていない。




それ、絶対のびてて不味いよな。




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