番外編~片桐さんのお買い物~
狂助はエレナから貰った(というより恐喝に近い)銀貨を3枚弄びながら歩いていた。
ちなみに銀貨1枚は上界で1万円相当である。
同じように銅貨1枚は100円、金貨1枚は10万円相当である。
「さーて、何を買うかな・・・・・・と言ってもこれでどの位の物が買えるんだ?」
もっとも狂助にはその価値は分かっていなかった。
「へい、そこの兄ちゃん!!」
「ん、俺か?」
2足歩行のネズミ人間の店主が狂助を呼びとめた。
麦わら帽子の様な物を被っており、何故かよく似合っている。
「これ欲しくないか?」
店主が見せたのはねじ巻き式の日本人形の様な物だった。
ねじを回すとカタカタと日本人形は歩き出した。
「おお、何でもない物の筈なのに何だこのカルチャーショックは?」
「何でもないってあんた、これはとあるルートから仕入れたお土産に大人気の一品だぜ」
「で、いくらだ?」
「ざっと銅貨1枚」
「ど・・・・・・銅貨?」
狂助は手元のコインに目をやった。
太陽光に反射して3枚のコインは銀色に輝いている。
「銀貨1枚に負けろ(・・・)」
店主は意味が分からないといった顔をしている。
「・・・・・・へっ?」
「だから銀貨1枚に負けろって言ってんだよ」
狂助は値切る為かいつも以上に強い口調である。
頭から教えられた一般人に優しくという精神はどこへ消えたのか。
対して店主は困惑してるようだった。
「えっと、銀貨1枚に?」
「そうだよ。とっとと負けろや」
周囲の店や客もいつの間にかこの珍妙な光景に目を向けている。
ネズミ人間はしばらく沈黙していたが、申し訳なさそうに言った。
「じゃあ、負けま・・・・・・しょうか」
「よっしゃ!!」
「ま、毎度あり~」
「おいおい、そんな悲しそうな顔するなよ。ちゃんと大事に使ってやるからよ」
狂助は店主を宥めるかのようにそう言って人形をひったくるように取っていき、笑いながらその場を去って行った。
「ふう、疲れた」
狂助はそこから道行く店から呼び掛けられ、銀貨1枚に負けるから買ってくれという文句を何度も聞く羽目になった。
店側も良い鴨を見つけたと必死になって狂助を呼びとめたが、狂助が欲しいと思う物は特になかった。
「しかし、何でどこの店も銀貨1枚に負けるって言ってたんだ?・・・・・・まあ、良いか」
狂助は呟いて道路へと座りこんだ。
一応、端に寄ってはいるので通行人の邪魔にはなっていない。
そして、これまた銀貨1枚に負けると言われて買った緑のジュースのような飲み物に口をつけた。
当然このジュースも元は銅貨2枚で買える筈の物である。
ジュースはスポーツドリンクのような味がして汗をかいていた狂助には丁度良かった。
「さて、残り1枚になっちまったな」
狂助は悲しそうに手元の銀のコインを見つめる。
ふと狂助は目の前の少し大きめの建物に目をやった。
狂助はそれを見て最後の銀貨の使い道を決めた。
その建物はどうやらカジノのような場所らしくこの位置からでもルーレットとカードを配るディーラーの姿が見える。
「よっしゃ、これで一気に稼いでやる!!」
狂助は意気揚々とカジノへと入って行った。
「おーい、エレナ」
「あっ、狂助さん。どうしました?」
「金貸してくれ」
「ちょっと待ってください。さっき銀貨3枚も盗られ・・・・・・あげたじゃないですか」
「頼むあとちょっとで良いから。絶対倍にして返すから」
「嫌ですよ。どうせ博打でしょ?その流れは絶対負けますよ」
「・・・・・・エレナ」
「何ですか?ってひゃあああ!!」
狂助はエレナを抱き寄せ、そのまま彼女を抱きしめた。
エレナは顔を赤くしながら反論する。
「ちょ、ゼブラスさんが店から出てきたらどうするんですか、きょ、狂助さんがロリコンって疑われますよ!?」
「いや、金が手に入るならロリコンで構わん」
「へっ?」
狂助はエレナのドレスのポケットから素早くうさぎが刺繍されている財布を抜き取った。
そのまま狂助は電光石火の速さで逃げ出した。
エレナは一瞬何が起こったのか分からず茫然としていた。
事態を察してポケットを探ってももう後の祭りだった。
「すられたあああああああ!!」
エレナの叫びがセントラル中に響いた。