We are in the sky
「で、どうしてこんなことになったのだ?エレナ殿」
「さ、さあ」
「ったく、師匠の奴最初からこれが狙いだったんだな」
「ぐがあ・・・・・・ぐぅ」
上から順にネイク、エレナ、ゼブラス、狂助である。
ネイクの言い分ももっともである。
ネイクとゼブラスはアンノウンからしばらく出稽古に出ろと言われて、セントラル行きの航空機に乗った。
ちなみにこの航空機は上界のものとほとんど同じ(材料等に若干の違いはある)である。
エレナ曰く上界のエンジニアがここに召喚されたことによりその技術が継承されたらしい。
そして、アンノウンから手渡されたチケットに書かれていた指定席には良く見知った2人組が座っていたという次第である。
「ぐう・・・・・・すう・・・・・・がぁ」
狂助は昨日の戦いが応えたのか窓際でいびきまでかいてぐっすり眠っている。
しかし、だからこそ残り3人の会話が円滑に進んでいるのだろう。
ここに狂助が入ると絶対にネイクと喧嘩を起こす。
本当にこいつが寝てて良かったとゼブラスは密かに思っていた。
狂助を除く3人が取りとめもない話をしばらく続けた頃。
自動ドアの開く音と共に4人の目だし帽を被った黒服黒ズボン姿の男達が入ってきた。
そして、間髪入れずに男の1人が叫んだ。
「この飛行機は俺達が占拠した。両手を頭に置いてしゃがめ!!」
機内に2発の銃声が響きわたる。
途端に客席から悲鳴が上がる。
「静かにしねえか!!」
また1発銃声が響く。
男達の装備はトカレフTT-33という名の拳銃。
もっとも狂助以外の客達にそんなこと知る由も無かった。
銃声で狂助が瞼をこすりながらようやく起き出した。
「ん・・・・・・何だ?銃声?」
寝ぼけた声で狂助は言った。
エレナが小声で狂助に返答する。
「狂助さん。ハイジャックです。静かにして」
狂助は一気に目が覚めて冷静に尋ねる。
「この世界でもそんなことあるのか・・・・・・?」
「運賃がたんまり溜まってますから」
「ああ、こっちの飛行機はチケット持ってない奴はバス方式で金払うって言ってたな」
そこへ話し声を聞きつけたのか男の1人が歩み寄ってきた。
「何をこそこそ話してた?」
「おっ」
男の脅すような口調にも動じず狂助は目を輝かせて男の手元にある物に目を向けた。
狂助は通路に出て、素早く男の拳銃を奪い取った。
「へー、トカレフか。でも、中国製か。懐かしいな、確か頭に何回も撃たせてもらったっけ。あれは何年前だったかな」
「何ごちゃごちゃ言ってんだ!俺の銃返せ!!」
そう言って掴みかかってきた男に狂助は裏拳を喰らわせてやった。
男は残り3人のハイジャック犯の方に何回転もしながら飛んで行った。
一瞬、機内が静寂に包まれ、少し遅れてネイクが叫んだ。
「何をやっている馬鹿者!!」
狂助は悪びれもせずに応えた。
「馬鹿者じゃなくて狂助な。何で軍隊少女と魔法少年がいるんだ?」
「ネイクとゼブラスだ!何をしたのか分かっているのか!?」
「何って・・・・・・これもっとちゃんと見たかったのにこいつ等がうるさいから。俺悪くないだろ?」
「ぐぬぬ・・・・・・ここまで馬鹿だとは」
ネイクは拳を握りしめて憤慨した。
ゼブラスが諦めたようにため息をついて立ちあがった。
「諦めろ。もう何やったって無駄だ。向こうの装備も拳銃だけだから何とかなるだろ」
続いてエレナも立ち上がる。
「何かヒーローみたいですね」
ヤクザがヒーローとは随分と滑稽に思えて狂助は苦笑した。
ハイジャック犯達はこちらが話している間に既に臨戦態勢を作っていた。
最初に動いたのはハイジャック犯の一人だった。
男がネイクに向かって発砲。
だがネイクは弾丸をサーベルで切るという人外なことをやってのけた。
「へっ?」
男が間抜けな声を上げた時には既にネイクは目の前に迫っていた。
刃を返し、「やあっ!!」という短い掛け声を上げてネイクのサーベルは男の喉を的確に捕えた。
男は呼吸困難に陥り、気絶。
「くっ・・・・・・こ、こいつがどうなってもいいのか!?」
男の1人が客の老婆の頭に銃を押しつけ、完全なる悪役の台詞を叫んだ。
それを見て狂助は叫んだ。
「今だエレナ!!この前言ったあれ(・・)をやれ!!」
「はい!!」
エレナは男の立っている真上の天井に自動書記で魔方陣を描いた。
すると、上界のある物が召喚された。
ある物とは金だらいの事だ。
老婆を人質に取っていた男の脳天に直撃し、男は声も上げずに気絶した。
そして、狂助は爆笑し始めた。
「あははははは、ドリフかっつうの!!」
狂助の言っている意味は分からなかったが客の大半、エレナやネイクですら爆笑の渦に巻き込まれた。
最後の1人がこの隙に逃げようとした時。
「氷刃」
ゼブラスがそう唱えると男のすぐわきの壁に大きな氷の刃が刺さった。
男の戦意を喪失させるのにはそれだけで十分だった。
ついでにゼブラスは狙撃声(どんな雑音の中でも相手に確実に自分の声を届ける魔法)を使い、冷たく言い放った。
「次は当てるぞ」
男は拳銃を落とし、その場にへたり込んだ。