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ヤクザと召喚師  作者: 緑一色
逆換編
13/38

それは夢か現か幻か

狂助が林蔵にその拳を振り下ろそうとした時だった。


狂助の拳は何者かの手によって抑えられた。


林蔵は恐怖のあまり気絶している。




それは夢か現か幻か。狂助は目の前に広がっている光景を信じ切れなかった。



「やめろ。狂助」


「え・・・・・・栄冶?」



狂助の腕を掴んでいたのは彼の親友であり同僚である野田栄治だった。


しかし、やはりおかしい。

栄治の姿はガラスのように透き通っており、後ろの背景が栄治を通して見える。


「栄治・・・・・・お前」

「ああ、この姿か。悪い、そんなに時間が無いからうまく説明できないが、地獄みたいな所から少しな」


そう言って栄治ははにかんだ。


茫然としたままの狂助に構わず栄治はそのまま続ける。

「まずは、お前こいつを殺そうとしたな?」

「・・・・・・ああ」


「俺の敵討ちか?」

「ああ」


「いいか。こんなことをしても俺は戻ってこないんだぞ?本当だったらお前が組の後を継ぐべきだったんだ。この馬鹿が」


栄治は狂助を軽く小突く動作をした。

しかし、すっと栄治の腕は狂助の頭をすり抜けた。

その感触が何だかとても悲しかった。


「いいんだ。俺ももうすぐここから消える」



自暴自棄気味に狂助はそう言い捨てて煙草を吸い始めた。


すると、栄治は強い口調で返した。


「お前、死ぬなんて馬鹿なこと考えるなよ」

「そんな訳ないだろ。もしも自殺なんかするならお前みたいなやつの敵討ちするよりギャンブルしまくってから死んでやる」

「俺はパチンコ台以下かよ」

「へっ」



狂助は次の煙草に火を点け、声のトーンを少し落としてから続ける。



「地獄があるなら・・・・・・この話も信じてくれるか?」


狂助は今までのいきさつを簡潔に話した。



栄治に笑い飛ばされるだろうと思っていたが、結果は全く違ったものだった。


「それ本当か?」

「まさか信じてるのか?」

「信じるも何も、俺と頭はその地界にいる」

「何だって!?」


狂助が驚愕の声を上げた時だった。

狂助の足元が淡い紫に輝き始めた。タイムリミットのようだ。


狂助は早口で栄治に告げた。


「いいか!!俺は中界にいる。そして、お前と頭を絶対に助け出しにいくからな!!」



栄治は乾いた声で笑い、冗談めかして返した。


「無理だけはするなよー」


狂助も微笑みながら返した。

「ああ、マイペースでいかせてもらう」



両者ともほんの少しだけ涙を流しているように見えた。




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