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「あの…お話がございます」妻にそう言われる度に、僕は逃げ続ける  作者: Kouei


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最終話 もうひとつのすれ違い side:ラフィーニャ 

「初めまして、ラフィーニャ・ケレスと申します」


「……っ」


 セネック様は何も言わずに走り去ってしまった。


「すまない、弟が失礼な態度を…」


 ファビオ様は謝罪をして下さったが、私はちっとも気にしていなかった。


 だって…耳が赤くなっていたもの。

 緊張されていたのかしら?


 そんな不器用な態度が可愛らしく感じた。


 柔らかそうな茶褐色の髪とセピア色の瞳。

 身長は私より低くて小柄。


 兄と二人兄妹だった私は、あんなかわいい弟がいたら楽しいでしょうね…と、最初はそんな想いだった。


 それから数週間後、私はファビオ様の誕生日パーティーに招待された。


「セネックのプレゼント何にするかな〜」


 招待状を渡された時、ファビオ様がぽつりと呟いた。


「セネック様もお誕生日が近いのですか?」


「あ、うーん…実は俺の次の日なんだけど、毎年俺の誕生日と一緒にされてね。あいつも今まで文句のひとつも言わなかった事もあってずっとそのままに。だから、せめてプレゼントくらいはあいつの喜びそうなものを…と思ってな〜」


「そうだったんですか…」


 きっと、後継者のファビオ様がいつも優先されていたのね。

 私もお兄様がいるから何となく理解できる。

 でも男性と女性とでは、全く違う。


 セネック様は、もっとお辛かったに違いない。

 もっといろんな事を、我慢されていたのではないかしら…


 私は小さなセネック様が一人耐えている姿を思い浮かべ、切なくなった。


「…プレゼント、何か差し上げたいわ」


 私は街に行き、どんなものをあげようか考えながらプレゼントにする品を探した。

 何か…流行りのおもちゃなどがいいかしら?

 子供の商品を扱っているお店に入り、いろいろ見ていた時だった。


「やめろよっ 子ども扱いすんな!」


「何言ってんのよ、十分子供じゃないっ ちびのくせにっ」


 小さな少女がその子よりも小さな男の子に、身を(かが)めてからかっている。


「あ!」


 その光景を見て、気が付いた。

 私が挨拶した時の事を。


 セネック様は緊張していたんじゃないわっ

 子ども扱いされたと思って、傷つかれたんだわ。


「私ったら…」


 確かに私より小柄で可愛らしい風貌に、思わず小さい子に接するような態度を取ってしまった。

 私はそんなつもりではなかったと言っても…相手が傷つけばそれは失礼な態度だ。


 私はお店を出て、紳士服のお店に立ち寄った。




 誕生日当日 ―――――



 私が選んだクラヴァットをセネック様はとても喜んで下さった。

 よかった、こちらにして。


 その時から私たちは打ち解けるようになり、まるで弟ができたようで私はとても嬉しかった。


 けれど過ぎ行く時間は、彼を少年から男性へと変化させていく。


 初めて出会った時は高かった声が、いつの間にか大人のように低くなっていた。

 私の胸辺りしかなかった背も、いつの間にか私の頭を軽く超えていた。



 私はセネック様を一人の男性として、意識せずにはいられなかった…



 そんなある日、両親が私の縁談話をしているのを耳にした。


『実は子爵家から話が来ていて…』

『あの子も17歳ですものね…遅いくらいですわ』


 婚約……結婚……そして子供……


 見知らぬ男性との未来が作られようとしている。

 その時、脳裏を過ったのはセネック様のお顔。


 けれどこの想いは、私だけの一方通行。


 3つも年上の女性を、わざわざ結婚相手に選ぶはずもない。

 世間体を考えれば、体裁も悪い。

 そんなの当たり前だわ…


「セネック様…っ」



 どうすればいいのだろう…



 ◇



「何かあったのか?」


 よほど切羽詰まった顔をしていたのか、ファビオ様が心配そうに声をかけて下さった。私は(わら)にもすがる思いで、彼に相談した。

 

 縁談の事、セネック様への想い、そして場合によっては修道院へ行く覚悟ができていることを…


「じゃあ、俺と“偽装婚約”しないか?」


「え?!」


 ファビオ様が予想もしていなかった事を提案をしてきた。


 話しを聞けば、ファビオ様は今、侯爵家の一人娘のご令嬢とお付き合いをしており、将来婿入りする約束をしているという。


 しかしオルノアス家の後継者の自分を、現当主である父親が簡単に婿に出すわけがない。


 そこで私と偽装婚約をし、侯爵令嬢と不貞を犯した事にし婚約を破棄する。

 そして弟であるセネック様を自分と()()え後継者にし、慰謝料も持参金と相殺すれば万事丸く収まる。結果、侯爵家と姻戚関係になるのだから、父親も渋々許すだろう…というのだ。


 ……ファビオ様は少し楽観的なところがある。


 そんな浅慮な計画でうまくいくのかは疑わしかった。

 それでも、このまま何もしなければセネック様以外の方の元へ嫁がされるのは目に見えている。私はこの現状を変えたかった。


 ただひとつ問題だったのは……


「ですが……セネック様のお気持ちが…。私のような…年上の者がセネック様の婚約者なんて…きっと(いや)がられます…」


 自分の事ばかりで、セネック様のお気持ちを置き去りにしてしまったわ。

 きらわれてはいないと思うけれど…きっと姉のように思われているはず。

 その私が将来妻になると知ったら驚かれるだろう。

 

「ああ、それは大丈夫大丈夫!」


 ファビオ様はウィンクしながら、力強く右の親指をグッと立てて見せた。

 

「……」


 …………不安で仕方がないわ。


 けど、この不安を吹き飛ばす出来事が、再婚約する場で起こった。


 セネック様が私の前で片膝をつき、右手を差し出された。

 そして…


「どうか僕と結婚して下さい! 絶対に幸せにします! 決して兄のように裏切る事は致しません! 生涯あなただけとここに誓います!!」


 胸の奥がじん…と熱くなり、視界が揺れる。


 きっと姉を慕うように大切に思ってくれているのだろう。

 家族として大切にする。

 そういう意味だろう。

 それでもいい。


 あなたといられれば…


「はい」

 

 そして、セネック様の手を取った。

 この瞬間、私はこの世の幸福を独り占めした気持ちになった。





【終】

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