2話 人型深淵異形
模擬戦闘が終わり、控室で一息つきながら、一人反省会をしうなだれていた立夏。教導士官や、同チームの同期に励ましを貰い立ち直るも直後、本部の近くに深淵が発生したとの報を受ける。教導が戦闘に向かう中、立夏はそれに同行すると決意した。
「私も行きます!」
立夏は教導士官に向かって叫ぶ。前を走る彼女は振り向かずに、携帯から装備を起動し、空中に現れる装備を次々に装着しながら言った。
「本部の近場だから本部の警備部隊もいるはず…立夏ちゃんは一度控室で事態が収まるのを…」
立夏の携帯が鳴る。先に一緒であった狙撃手からの緊急通信がスピーカー音声で流れる。
「こちら1200期生! 増援を求めます! 繰り返します、増援を!」
言い切った後に激しい衝撃音と周りから叫び声が聞こえ、通信が途絶した。思わず二人は立ち止まる。音と通信の切れ方、増援を要請した彼女は戦死した可能性が高い。
「私に敵をとらせてください…お願いします!」
見ると立夏の装備装着は終わっている。この会話までの3分、試験では7分かかっていたので大きな進歩だと言えよう。
教導士官の立場からすれば新兵を状況判断し、この戦場に出すべきではないと分かっている。しかし、既に別の新兵が戦場に参戦し、戦士の可能性も高く一刻も早い増援が必要だ。 選ぶ時間はない。
「わかりました。行きましょう」
二人は研究所の階段をまるで坂を上る車のように滑り上がる。自動ドアを通り、外に出ると大通りを市民が逃げていく様子が見える。本部は雑居ビルに偽装し、都心に建っているため近くに現れるということは市民に被害が出る可能性がある訳だ。
「あそこだ、急ぐわよ!」
腕のコンソールを操作すると、黄色い靴の装備が赤く変色する。立夏も同様に操作を行う。地面を蹴って走り出すと、2人は高速道路を走る車のごとく道路を爆速で滑る。ものの2分で到着したが、そこは阿鼻叫喚の惨状が広がっていた。
逃げ遅れた市民を嚙み千切る四足型の異形、二足で顔面が無く、先遣隊のシンガリと戦闘している異形。いつもはこの2種類の異形が出てきては街や人々に危害を加える。しかし今回はその2種類が大量に発生している。視認できるだけでも50はおり、対するシンガリは38。二人を入れても40。物量差がある。それに深淵の核のすぐ前には二足の大型異形がいる。そいつには顔があり、あたかも人間かのように直立している。体も女性の体つきをしており、そこから異形と同じ結晶の様な物が付着している。人間と違うのは身長が3メートルはありそうなところか。
「私はアイツをやる…おそらく司令塔だ。立夏ちゃんは四足をお願い、いい? 無理はしないで」
「わかりました。先生もお気をつけて」
「ありがとっ!」
ひとっ飛びで大量にいる異形の背後に飛び込み、何匹か反応した雑魚を一刀両断する。それを見届け、立夏は戦闘に参戦した。
四足歩行の異形は、野生生物のように飛び掛かってくる。落ち着いて後方へ下がりながら盾のライトを点滅させる。
「ギャウッ!」
光で眼が眩んだのか、驚いたのかは顔がぐちゃぐちゃで判別がつかないが、ともかく着地に失敗し地面に転げ落ちる。彼女は転げた異形に対して容赦なくワンマガジン撃ちこんだ。顔が風穴だらけになった異形は既に動かないものになっている。
「横の盾持ちちゃん!」
横を見ると二足の異形の爪と、短刀でせり合いしているシンガリがいる。マガジンをクイックリロードし、異形へ打ち込むとソイツは怯んでよろける。隙を見逃さず、せり合っていた女性は短刀で首を刎ねた。ぽーんととんだ首は地面にボールのように落ちた。
「ありがとう、助かったよ。で、所属は? あたしは関東第一郊外警備の那間倉って言うんだけど。学生さんよね? どうしてこんな時間に…」
「さっきまで模擬戦闘で、帰りに警報を聞き、教導士官とここに来ました! 同期も来たはずで、応援要請も本部に届いてます」
「そっか、さっきの狙撃手の子の同期ね…私の援護お願い。怯ませてほしいの、私は子の短剣と…」
そう言って腰からリボルバーを取り出す。
「この仕留める用のリボルバーしかなくて、火力に乏しいの。でも二人ならお互いの火力をカバーできるはず。どう?」
立夏は間を置かずに頷く。
「じゃあ行きましょ。 まだたくさんいるから…」
そう言って短剣に付いた、さっきの異形の結痕を左右に振り払う。立夏も盾を構え直し、銃をリロードする。ツーマンセルで異形の集団に突撃した。
登場人物紹介
:冬木 立夏:
アビスハンター1200期の成績最下位者。装備は相手の目を確実にくらませる、3500lxのライトの付いたシールドに、オートマッチック拳銃A-9を装備している。盾を持っているのも、回避試験で模擬弾を回避する成績が悪かったからである。
:佐野 柳子:
作中にもある通り、現状キル数ダントツトップのシンガリ。武器は日本刀を模して造られた”ワダチ”という武器で、彼女専用にカスタマイズされている。四足歩行、固い岩石の様な異形すらも切り伏せる一撃はまさにハンターの切り札である。
:那間倉 愛理:
関東第一郊外警備隊第07群所属の短刀使い。定期試験ではほぼ中間に位置する。短刀ということで火力に乏しく、いつもは有利を取った後、リボルバーで処理するか、仲間が攻撃できるまでの時間稼ぎをする役目だ。今回は連戦に連戦であったため、リボルバーを撃ちっ切ってリロードできず、あわや押し負けるところであった。




