未練
織は自分の顔を覆った。
よく見ると耳が赤くなっている。
「なんでそこまで話を飛躍させるんですか……」
「え、だって縛るものがなくなってからも俺たちといたいって思ったってことはさ俺たちのこと好きだったんだろ?好きでもない人間と何十年もいられるほど人間は簡単にできてないよ」
俺だってそうだ。みんなといるのが好きだったから、みんなを守りたかったから一緒にいたんだ。守るための手段がそれしかないって分かったから継ぐことにしたんだ。本当に嫌だったし、何度も断っていた。それでも最終的にそう決めたのはみんながいたからだ。
もう取り返しのつかないところまで来ていた。みんなの顔も知れ渡ってしまっていた。
そこから狙われないようにすることは容易なものではなかった。だからまたゆっくり考えろと言われたんだったか。フェリータの力を全て使って今後一切裏に関わらないようにすることもできるとか、ただその場合は俺の幹部を全て変えることになる、とかなんとかなあ。色々言われたが、俺はかくれんぼというのをしたんだよな。
「なんで俺かくれんぼにしたんだろ……」
「あの時の話ですか?君が勝手に決めたんじゃないですか。『俺を捕まえたらついてきてもいい』でしたっけ?僕たちの覚悟を見たいとか言ってましたよね」
「あーうん、本当は突き放してすぐにどこかに行けば良かったんだ。そうすれば、みんなのことも巻き込まないで済んだんだろうからさ。それでも、俺は突き放せなかった。みんなと出会ってからの日々が楽しすぎたから。マフィアとかそういうの、本当に意味わかんないって思ったけどそれでも、あの日チェーンがうちに来てから始まった日々のことを手放すことができなかった。最低だよね」
「苦しそうな顔して言われても全く説得力がないですね。どうせあなたは、今もあの日々にとらわれているんでしょう」
「はは......未練がましいよな」
俺は上を見る。家の中だから見上げたところで何もないのだが。俺はずっと過去にとらわれている。みんなのことを忘れらないでいる。
会いたいと願ったところで、すぐに会える距離にいるわけでもない。ましてや、世界さえも違うというのだ。そう簡単に会えるわけがない。
織に出会えたのも偶然のようなものだ。
「別にいいんじゃないですか。君がそうやって変わらなかったから、僕は君の精神世界に介入することができたんですよ」
「そうだったな。まだ幼かったから理解には苦しんだけどな。記憶は、まあ少しはあったけど」
「記憶ない状態で話してたのだとしたら引きますよ。初手で『うわっ、ナスの妖精?!』でしたからね」
「そうだっけ?覚えてないなあ」
「都合のいいところだけ忘れるんですから。そしてすぐに話を脱線させますよね」
「脱線させた覚えはないんだけどな。それで?織......いや、ネビア。なにか話あったんじゃないの?」
矢霧織は前の名前だ。今の名前は違う。だったら今の名前で呼ばなければ話が始まらないと思った。
「近況報告ですよただの」
「ただの近況報告で急に呼び出すことはしないだろう。うちの藍色は」
うちのファミリーには、いや裏ではバングルというものを使って戦っており真ん中に色のついた石が埋め込まれている。そしてその石の色ごとで属性を分けて呼んでいる。
織は藍色だった。俺の幹部のもう一人の藍色。
「それも勘ですか?」
「いや、ただそうじゃないかと思っただけだよ。ネビアのことも信頼してるしな」
「勘に近いんじゃないですかねそれは......そして元々敵だった僕のことを信頼しているとは、本当にお人好しすぎませんか?」
「元々って、何年前の話してるんだよ。それはもういいだろ。いつか俺を利用して黒マフィア殲滅するとか言ってたくせに乗っ取ることもしなかったしさ」
初めて出会った時の印象は最悪だった。それもそうだ、織は最初敵だったのだから。俺のいる高校を襲った張本人だったからなあ。
でもあれから何年も経ってたらそんなことすら忘れる。許すわけではないが、少なくともあの時の被害は数年も経てば消えるものだったし。
「そんなんだから、あんな最期を迎えるんですよ。結局僕以外に何も言わなかったんでしょう」
「だって誰にも言いたくなかったんだよ。心配させたくなかったし、その点お前は大丈夫だろうと思って」




