逃げさせてもらいます
「はあっ、ここまで来ればいいかな。一日で意味分からないこと起きすぎだろ……ボスしてた時よりかはマシだけど」
俺はパーティ会場から遠く離れた森の中に来ている。行けと言われて無理矢理行ったパーティ会場。
その会場内で殺し屋と遭遇。遭遇というよりは俺が倒れなかったことにより姿も見たということなのだが。その殺し屋から解毒薬を渡されるとこまでは良かった。これで会場にいる人を助けられるとそう喜んだ。
「まさか見ている人がいるとはなあ......あーもう、先生に怒られる。って、今はいないんだったな」
前にいた先生……あいつがいたから俺は立派なボスになれた、のかもしれない。
「そもそもボスになんてなりたくはなかったんだがなあ」
急にマフィアのボスになれた言われたあの日。俺はあの日を忘れることはない
あんな屈強な男が玄関前に立ってたんだ。忘れようと思っても忘れられるわけがない。それに、あの日から全てが始まったのだ。
「ほんと、大変な日々だったな……」
「何がだい?」
「うわっ⁈な、なんで⁈」
「君を追ってきたからだけど?」
俺を追ってきたから、とその王子は言う。先程まで毒に侵されていたはずだというのに。
慣れている俺ならまだしも、この王子は毒になど慣れていないだろうに。
「あの人みたいだな」
俺はついそう呟いてしまっていた。
どうしても思ってしまったのだ。会えていないからだろう。そして、会えていない日々を寂しく感じていて会いたいとそう願ってしまっていたからだろう。
思わず口に出てしまっていた。
慌てて口をふさいだところで意味はなかった。
「僕が誰に似ているって?」
「いやだな、そんなこと申しておりませんよ。では、私はこれで失礼いたします」
こういう時には笑ってごまかすのが得策。先生もよく言っていた。お前は笑ってろ、って。怒った顔しても威圧感でないなら笑えって。
笑ってたら結構怖がってくれて助かったな。うちのファミリーの人たちはすぐに喧嘩してたからな。それを止める時によく使っていた。
それこそ王子に似てるって思ったうちのファミリー最強......
「ちょっと待ちな」
「だからなんなんですか。もう失礼しますって言いましたよね」
昔のことを考えていた俺の肩にポンと手を置く王子。
もしかしたらこういう場面は黄色い悲鳴を出すところなのかもしれないが、俺がそんなものを出すわけがない。というか、正直走って逃げたい。
「僕も言ったはずだ。君を追ってきたと」
「はあ、なんですか?私は何もしていないですよね。ただ暗殺者さんをパーティ会場から追い出しただけです。それ以外は何もしてません。本当に少々急いでいますので失礼させてもらえないでしょうか?」
「それをだけだと言い切る君はなんなんだろうね。そして王子という僕からの申し出を断るのも面白い」
「王子だからといって誰でも頷くと思わないでいただけますか?私は正直に申しますけれど、急に言われるというのは怖いものですよ」
本当に意味が分からないからな。急に婚約者になってくれとか言われて頷く人間っているのだろうか。きっといるのだろうな。そしていると思っているからこんなにも自信満々なのだろう。にしても王子は人にあまり興味を示さないというから行ったのになぜ興味を持たれているのか......面倒だ。
さっき言ったように急いでいるので一刻も早くこの場から去りたい。
「そういうところがますます僕の興味を引くのだけどね。まあ、今日のところは本当に急いでいるようだから見逃してあげるよ」
「ありがとうございます。それでは今度こそ失礼いたします!」
俺はそう言ったのと同時に走り出した。また呼び止められても面倒なので全速力だ。
ドレスが汚れるとかどうでもいい。あいつを待たせる方がもっと面倒なことになる。
今日のところはとか言っていた王子のことが気にならないわけではないが、それはあとで考えればいい。
「ったく、あいつもなんで急に言ってくるんだか!」
俺は走ってたどり着いた場所の戸を叩く。




