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プロローグ

 この国には冷徹な王子と呼ばれている者がいました。

 その王子は人には興味を示さず、小動物や力の強い人間に興味を持つような者でした。

 しかし、そんな王子に婚約者をと近づいてくる者たちは後を絶たない。王子はそんな者たちとは一切話そうとせず、無視し続けてきました。ですが、そうも言ってられなくなってきたのです。

 王子の父親である王が、王子に婚約者をあてがうことに決めたから。自分もいつまで玉座に座っていられるのか分からないのだから、子である王子に後を継がせたい。そのためには支えてくれる者も必要だと考えたのです。

 この国では後継者争いを防ぐために必ず第一王子が後を継ぐことになっています。

 王子はそれに反発しましたが、水面下で話はすでにまとまっていたのでした。

 王は自分の子供がただの人間には興味を持たないことを分かっていたので特別なパーティを開くことにしていたのです。平民も貴族もすべて集まるパーティを。

 王子は嫌だと言いましたが、それは聞き入れてもらえず遂にパーティ当日となりました。

 そこで王子は出会ったのです。自身の人生を大きく変えることになる女性と。



「早く解毒剤だせやごるああ!!」

「ぎぃやああ!!ご、ごめんなさーい!!出すからもうぶたないでくださーい!」

「ぶってないし寸止め!!」

「どっちでもいいんでもう帰ります!」

「はっ?ちょっ?!」

 ドレスを着ている美しい金色の長い髪に琥珀色の瞳の女性。

 その女性は自分より体格の大きな、フードを被った男を責めていました。しかし、フードをかぶった男は女性の圧に耐えきることができなかったのか多くの瓶を女性に渡し全速力で逃げていったのです。

「解毒薬渡したらすぐ逃げるとか......捕まえられなかったのは俺の落ち度だな」

 はあ、と女性はため息をついた。

 それはパーティ中に起こった出来事でした。

「まさか空気中に麻痺毒……というかすぐ気絶するほどの毒を撒くとはな……たしかに滅多に人前に出ない王子を狙うとしても無差別すぎるだろ」

 そう、パーティ中に王子を狙いに来た殺し屋がいたのです。

 殺し屋は王子だけでなく会場にいる全ての人間にも効いてしまう毒を撒き散らしました。

そのためパーティ会場にいた貴族も平民も皆すぐに倒れてしまいました。

 その中でたった一人だけ。女性はただ一人だけ立っていたのです。

「君、さっきこの会場に毒が撒かれたって……」

「うわっ、なんで⁈解毒剤まだ使ってないんだが?」

「それは僕のセリフなんだけど……」

「ああ俺は毒に慣れてるからこれぐらいなら立ってられる」

「そう……ねえ君、強いのかい?」

「強いかは知らないけど、多少は強くなったかもな。まあ、俺はダメダメって言われ続けてたから分からないや」

 女性は自分が強いのかどうかは分からないと言いました。自分は人からダメダメだと言われ続けていたのだから、強いわけがないとも思っています。

「毒に慣れてるっていうのは?」

「あーそれは……俺の仲間にすっごい料理作る子がいて……あと盛られるのも日常みたいなものだったから」

 女性は遠い目をしています。

 自分の中にある記憶を思い出しているから。

「気になってたんだけど君はなんなの?ただの令嬢には見えないし、一人称が俺なのも珍しい。何者?」

「あぇ、俺って言ってたか……いつもは気をつけてるんだがな……まあいい。私はただの平民ですよ王子様?聞いたところで面白い経歴なんて出てきません」

 女性はニッコリと王子に笑いかけました。

 先程までの様子とは変わりふんわりと優し気に笑っています。

 しかし、そんな様子の女性を見て王子は不思議そうに首を傾げました。

「別に僕は君の経歴になんて興味はない。僕が興味あるのは、この場にいる人間ほとんどが倒れていたというのに君だけが立っていたという事実だけ」

「いや私はたしかに立っていましたけど、それはあなたもでは?」

「僕は立ってはいないし、君みたいに犯人から解毒薬を奪ったわけでもないよ」

「奪ったって言うのはやめてくださいよ。人聞き悪いですから......」

 女性はため息をつきます。

 王子から興味を持たれているということにも困惑しているのだが、奪ったといわれるのは嫌だと思ったのです。

「そう、じゃあ言わないであげるよ。で、本題なんだけど、君僕の婚約者にならない?」

 女性はそう言われて元々早く撒く予定だった解毒薬の入っている瓶を床に全て落としてしまいました。

 破片も飛んでしまうため割るつもりはなく空気中に少しずつ混ぜてゆくつもりだったものを。けれど、あまりにも驚きすぎて抱えていた手を放してしまったのです。

「なに言って?!てか破片!やばいみんな起きちゃう?!いやそんなすぐは大丈夫か?!」

「早く返事してくれる?」

「うるさい!大体急に言われてうんとかハイとか言えるわけないだろう!とりあえず、起きた人たちが混乱しないぐらいの言い訳考えといてくださいね!私はこのまま逃げる!!」

 女性は王子の申し出に応じることなく破片を丁寧に拾って、会場をあとにしました。

 王子は女性の後ろ姿をただ見つめています。そしてこう一言呟きました。

「面白い小動物......絶対捕まえる」

 王子はギラギラと、獲物を流そうとしない肉食動物のような瞳をしています。

 これが王子の人生を変えることとなる出来事でした。

 ここから先のことは彼ら自身にしか分かりませんので語っていただくとしましょう——

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