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第2章 第3話 ほしいもの

「娘さんを僕にください!」



 俺の作戦はいたってシンプル。親が興味を持ってくれないのなら、嫌でも興味を持たせること。つまり結婚のご挨拶である。もちろん年齢的に結婚はできないが、それを前提に付き合っているという報告。それをきららの両親に差し上げた。



 噂程度だったがファンとして、推しの家族のことはある程度知っていた。大企業に勤める両親。そんな二人の元に生まれたきらら。家はタワーマンションの上層階で、とにかく綺麗で広い。悪く言えば、生活感のまるでないモデルルームのような部屋。汚く狭くどうしようもない俺の実家とは正反対。



「そうですか」

「娘をよろしくお願いします」



 だがその精神性は、俺の両親と大差なかった。



「よかったね真司。じゃあ帰ろうか」

「ちょっ……ちょっと……!」



 夜訪ねたおかげか出された豪華な食事に手をつけることもなく席を立つきらら。座ったままその背中を呼び止めると、今までに見たことのない。心底軽蔑するような表情が俺を……その後ろの両親を見ていた。



「言ったでしょ? こういう人たちなんだよ、私の両親は。娘がどうなろうが興味ない。有名人になろうが、普通の高校生になろうが、犯罪者になろうが興味がない。自分のことが大好きで大好きで仕方ない人たちなんだよ」



 それは俺の両親も同じだ。自分が一番で、息子がどうなろうがどうでもいい。住まわせて金が入るならよし。金が入らないならどこぞで野垂れ死んでくれた方がいい。そういう人間だ。



 だがきららの両親は違う。上手く言い表せられないが……違う。俺の両親が子どものわがままだとするならば、大人の仕事のような……。そんな雰囲気が、どうでもよさげにワインを口に当てる仕草から感じられる。



「犯罪者にはならないでほしいな。私たちの評価が下がる」

「評価が下がる!? それは誰からの!? 会社からの評価!? だったら私が伝えてあげるよ! 2人とも不倫してる駄目人間だって!」


「仕事の余暇時間に何をしようが問題ない」

「さっすが! 会社のためのお見合いで結婚した人の言うことは違うね! 真司帰るよ! 推しに汚点を見られるのがこんな苦痛なことだとは思わなかった!」



 きららが一度戻ってきて俺の手を掴む。推しが俺の手を握った。とても温かい……強い手だ。感情が伝わる、力強い意思。娘の行動に何ら興味を持たない両親とは正反対のもの。



「愛がほしい……か」



 きららの想いがようやくわかってきた。つまりは、こういうこと。きららはそれを欲している。どうしようもないほどに。ただ推しているだけのファンを推してしまうほどに。



 俺にできるのだろうか。きららがほしいものを。本当に心の底から望んでいるものを、推しに届けることができるのだろうか。わからない。わからないが、推しのためなら。



「お父さん、お母さん。僕はまだ何も諦めていませんから」



 この両親を変えることを誓うのだった。

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