表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

2/8

第1章 第2話 推せる理由

「ごめん……今の状況全く理解できないんだけど……」



 俺の推し、英栖きらら。憧れの存在が目の前にいる。直接話している。そして、俺を推しだと公言している。理解が追い付かないのも無理はないと思う。そんな混乱する状況でも推しのために動けた俺は、とりあえず人目につかない校舎裏へときららを移動させ、話を聞く。



「俺が推しって……どういうこと……?」

「推すのに理由ってあるのかな?」



 そんな俺とは対照的ににっこにこ満面の笑みなきららは、俺の手を掴んで離さない。こんな状況誰かに見られたら絶対炎上する。推しの炎上はファンにとって一番の苦痛。俺がどうなろうと絶対に隠さなくてはならない。



「でもあえて理由をつけるとしたら、やっぱり私の一番のファンになってくれたことかな。活動する上で一番辛いのは、誰にも見られない。認識してもらえないことだもん。そんな状況を救ってくれたのは君だもん。感謝してもしきれない。本当にありがとう!」



 ぴょんぴょんと跳ねて、普通の人がしたら痛々しいサイドテールを揺らして感情を伝えてくるきらら。感情が身体に出て抑えられない状態……完全にオタクのそれだ。でもやはり理解ができない。



「でも俺なんて全然金落とさないし……再生数のためにずっと動画流してるけどイベント行けてないし……SNSで宣伝しまくってるけど痛いだけかもしれないし……きらら……英栖さんに推される理由なんて一つも……」

「ふひっ。な、名前呼んでもらっちゃった……」



 推しに褒められて無駄に謙遜しまくる俺と、推しに名前を呼ばれて変な声が出てしまうきらら。完全にオタクが二人いる状態。何なんだこれは……全く理解できない。



「初めはもちろんファンの一人のことなんか気にしてられなかった。自分のことで精いっぱいだったもん。でも軌道に乗り始めて落ち着いた時……やっぱり頭によぎるのは君のことだった。誰も私の歌を聞いてくれない……見てくれない時に、ただ一人私の正面で向き合ってくれたファンのこと。今彼は何をしているんだろう。まだ私のこと好きでいてくれてるのかな。そう思ったら、自然と調べてた。君の個人情報を」



 個人情報。そんな恐ろしいワードが飛び出すも全く気にならない。これが推しのパワーというやつか。……いや、でもやっぱり嫌だ。俺がどんな存在なのか。俺がどれだけ惨めな人間なのか。一番かっこつけたい人に知られるのは。だがそれは、遅すぎた。



「真司……浮草くん、いじめられてたんだね。理由はわからないけど、クラスメイトから暴力を振るわれて、馬鹿にされて、下に見られ続けてきた」



 やっぱり駄目だったか。俺がどうしようもない陰キャだということを知られてしまっていた。憧れの存在にそんな恥ずかしい事実を認知されてしまった。



「……理由は俺もわからないよ。でも推すのに理由はないように……いじめられるのにも理由なんてないんだと思う。色んな小さな理由の積み重ねで推すし、色んな小さな理由で下に見られる。人間として、俺は人より劣ってるんだよ」

「そんなことない! 真司は私を救ってくれたすごい人だもん! だからそれを伝えるために同じ高校に入ったの! 浮草真司という推しのすばらしさをわかってもらうために!」



 ……そう言ってくれるのはうれしい。推しに認知してもらえて、ここまで言ってもらった。うれしすぎてまだふわふわしているが、やっぱり駄目なんだ。



「君は誰もが知ってるアイドルで、俺はただの冴えない男だ。アイドルが男と仲良くするなんて、炎上するに決まってる。だから……」

「……そうだよね。私だって炎上したくない。でも好きだっていう感情は抑えられない。今度は私が君を応援したい! だからさ」



 ……そうだよな。誰かに言われたからってやめられないよな。それで止まれるなら、ファンなんてできないよな。



「この関係は二人だけの秘密。私は君を守るから、君は私を守ってね」



 こうして俺ときらら。ファンとファン。推しと推し。二人だけの秘密の学生生活が始まった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ