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大艦巨砲戦争  作者: 天照
8/8

リメンバーパールハーバー

ズズーン

轟音は地の底から響き渡り、巨大な水柱が高々と上がった。

そして水の柱は形を失い降り注ぐ、水滴が長門の甲板を濡らし、砲塔を湿らせる。

熱を持つ砲身に打ち付けられた水滴は直ぐさまその姿を湯気に変え、すーっと消えていった。

静かな一瞬、つかの間の静けさが海上を包んでいた。

しかしその静けさの中にたたずむ鋼鉄の城の中では、それとは逆の動騒と怒号とに支配されていた。

「次弾装填急げ!」

揺れる艦橋で艦長が叫ぶ。

室内では士官兵士問わず全ての者が一心不乱に働いている。

幸い砲撃が始まってから一発の致命弾も受けていない。

ただ一発の命中弾を左舷に受けたことがあったが、不発であり、艦の皆は大きくその身を揺らせる長門の強運に感謝した。

一トンものその砲弾は長門の重厚な装甲に弾かれ、虚しく海中へ没したようだ。

ビッグセブン、七巨艦と称され当時世界最強と目される戦艦に、長門は姉妹艦陸奥と共に列せられている。

大艦巨砲主義の大建艦時代にうまれたその艦は世界初の40cm砲を搭載し、ニ十年以上もの長い間日本の軍艦の頂点に君臨し続けていた。

彼女ら日本の守護女神は、その身体をもって幾多の情勢緊迫から日本を護り、戦前の長い間の国威の象徴であったのだ。

沈黙の巨砲…当時火を吹くことのなかったその主砲は、今苛烈なる猛攻を加えている。かつては威光をもって日本を護り、今はその威力をもって日本を護るために戦っている。

しかして、それは本当に正しい判断だったのだろうか。

一瞬の迷いを直ぐさま三川は振り払う。

私は軍人としてもう迷わないと決意したではないか!

騒がしい艦橋内で唯一整然と立ち尽くしていた三川の胸の中には、何とも言えない不快感が立ち込めた。

ズドーン……

轟音が響き細かな振動が艦を震わせる。

艦は再びゆっくりと揺れ、また同じ位置へと戻っていった。

「航空隊がよくやってくれたようだな。陸からの砲撃が大分少ない。」

沈んだ気持ちを持ち直し、三川が呟いた。

「主砲命中……敵陸上砲台完全沈黙です。」

砲撃観測の報告を受けた砲術長が三川に伝えた。

これで戦艦への脅威はなくなった。

三川はそう思った。

陸上の大砲台群は文字通り壊滅し、停泊中の戦艦は火炎を天に冲して艦砲射撃どころではない。

近海を哨戒中であろう駆逐艦は脅威にはそれこそならなかった。

「軍設備を徹底的に破壊する。引き上げ予定まで後少しだ。諸君ここが正念場だ。」

「はっ!」

三川は静かに、そして確かに聞こえるように言った。

その場の皆はそれに呼応し、より一層熱を帯びる。

一方的な艦砲射撃がここから約一時間行われることになる。

長く感じるか短く感じるか……

諸陣営の将兵はその一時間をどう感じるのだろうか。

 

 

真珠湾が燃えている。いや、湾内どころではない。

この島のいたるところで火の手があがっている。

マッキンリーはその様子をただただ見渡していた。

港に停泊していた戦艦は見る影もなく、あるものは火の手をあげ、あるものはその船殻を海上へ晒していた。

戦艦テネシーは左舷に大傾斜し、艦上は煙に包まれている。

否、包まれる構造物などない。

上甲板は艦橋、煙突その他諸々の鉄塊とともに吹き飛ばされ、その黒煙と天を冲する火炎は艦内より湧き出ていたのだ。

ついさっきまで機銃を乱射し、その大火砲を猛射していたテネシーを、ただの浮き船へと成さしめたのは他でもない、長門だった。

先の空襲で片舷に魚雷を喰らい、テネシーは傾斜を生じていた。しかしその果敢な応戦はやむことはなく、寧ろ激しくなっていった。

上部には弾薬が次々運び込まれ、次々と空へ打ち上げられていく。

もしそこが夜であったなら、その闇夜に美しい華々が残酷に彩っていたことだろう。

しかしその創造主も終わりを迎えることになった。

ちょうど主砲弾の装填が完了したところであった。

高高度より飛来した一トン砲弾が彼女目掛けて突っ込んできたのだ。

その数三つ、一つは巨大な水柱を立てながら海中へ没した。

艦上の水兵は水飛沫に顔を歪め、銃座に手を掛けた。

しかしその瞬間艦は爆風と火炎に包まれた。

一発はテネシーの第一砲塔に命中し、そのドームを押し潰し炸裂した。

装填されていた砲弾は悲しくもそれに誘爆し、甲板をえぐる。

脆くなった甲板、それはもう艦を守る役目を果たせなくなっていた。

最後の弾がテネシーに命中した。


それは上甲板を貫き、内部に達する。

轟音とともに砲弾は炸裂するが、それだけでは終わらない。

上部船倉をも貫いたそれが炸裂したのは弾薬庫であったがための出来事である。

巨大な爆発は隔壁を引き裂き、その火炎と爆風が艦内を襲ったのだ。

第二、第三と爆発は連鎖し、エネルギーはそのはけ口を求め、天に救いを求めるが如く、上部建造物を吹き飛ばしたのであった。

転覆し船底を晒すか、着底しその悲劇的な大口から海水を流し込むかは時間の問題だろう。

陸上施設など言うまでもない。

幾多の砲弾が滑走路に撃ち込まれ、格納庫は焼け落ち、使い物にならなくなっていた。

弾薬庫は文字通り消え去り、吹き飛んでいる。

それでもなお、遥か彼方よりあの悪魔の如き砲弾は飛んできた。

もはや破壊する物など無いのに湾を揺らし、轟音を鳴らした。

「……」

声もださず、マッキンリーは微笑した。

本当なら自分もあの場に赴いて仲間と一緒に抵抗するのだろうが、そんな気など起きなかった。

そしてそんな自分に不快感を覚えた。

何時もは心地よかった潮風がこの時ばかりは自身の心を逆なでする。

また爆発音が響いた。

ドーンという音が耳の深部にまで届く。

湾外に退避しようと必死の逃走を図っていた軽巡洋艦が餌食となったようだ。

真ん中から断絶された船体は艦首を天に掲げながら、ずぶずぶと海中へ没した。

マッキンリーはゆっくりと腰を下ろす。

頭を垂れると、やつれたその顔は病人のようになっていた。

たった数時間の出来事が彼の顔から血の気を奪い、目からは光を奪った。

心はそれ以上にふさいでおり、黒い物で一杯になっていた。

怒り、憎しみ、悲しみ……

幾重にも折り重なった負の念がマッキンリーの心を飲み込んでいたのだ。

何故こんなことになったのだろうか。

ふと彼の脳裏には素朴な疑問が浮かび上がった。

アメリカ太平洋艦隊は無惨な姿を晒し、以前の面影はかけらもなくなっている。

イギリスを差し置き、今では我がアメリカ海軍は世界一といってもよい海軍力を誇っていた。

かつては二流、いや三流程度の軍事力しかなかった我が国は技術を盗み、高め、先の大戦での英国の没落後、ついに玉座に腰を落ち着けることができたのだ。

自分もそんな軍に憧れを抱き、期待を胸に入隊をした。

最初に戦艦コロラドを見た時は感動したものだ。

世界に誇る戦艦コロラド……

ビックセブンの一隻でその名は戦艦メリーランド、ウエスト・バージニアの三隻とともに世界に轟いている。

そんな我が軍が負けるはずはない!

今まで混沌としていた彼の心境が激しくうごめきだした。

何故あの東洋の島国に負けねばならない!

我がアメリカ海軍は一番でなければならないのだ!

目には光が宿り、その眼光は鋭く力強く瞬いていた。

顔は紅潮し、次第に息遣いが荒くなってゆく。

ばっとマッキンリーは立ち上がった。

砲撃はもう止んでいる。

憎き敵艦ももうこの近海から引き揚げている最中だろう。

彼は走りだした。

岬の坂を猛スピードで下っていく。

土を跳ね飛ばし、ちぎれた長草が浮きあがった。

この出来事を忘れてはいけない。

我らを辱めたこの屈辱を!

「リメンバーパールハーバー!」

マッキンリーの叫びは潮風に乗り、青空に拡散していった。

あけましておめでとうございます。

並びに投稿遅延申し訳ありませんでした。

題名が決まらず苦労してました。

なんだかこれもしっくり来ない気がします(汗)

内容も何だかぐちゃぐちゃになってしまいましたので出来ればアドバイスお願いします。

これは結構本気でお願いします(笑)

さて、ビックセブンといえば当時最強のラベルですよね?

長門、陸奥も含まれますが、このニ艦は他よりも抜きん出ていたように思います。

主砲は世界唯一の40cm砲を搭載し、約25ノットの足はコロラド型よりも4ノット速いことになります。

艦自体もこれといった欠点もなく、逆流煙以外は優秀なそれこそ名艦の名に恥じぬものであるでしょう。

戦前の逸話は沢山あり、非常に興味深い歴史もあります。

大和ができるまでの旗艦でしたしね。

何だか取り留めもない話になってしまいました。

では今年も良い年でありますように。

失礼します。

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