戦場の荒鷹
零式艦上戦闘機、略して零戦と言えばその名を知らない者はいないだろう。
特に初期型である零戦二一型は、抜群の運動性能とその長大な航続距離によって、史実の戦争においても空の王者に君臨した。
今此処には、その灰白色の機体を煌めかせて飛行する王者が一八機いる。
九機ごとの二個分隊が、それぞれに編隊を組み飛行しているのだ。
後方には守るべき戦友が点となっており、前方にはそれを阻もうとしている群れが幾多も見える。
米軍機F2Aバッファローの編隊だ。
三十はいるだろうか。
こちらを上回る数の戦闘機がこちらに向かってきている。
「みんな死ぬなよ……」
一機の零戦の中で操縦捍を握り、一人の男はこう呟いた。
此処を抜かれれば退避する友軍を守る盾はない。
自然と男の肩に力がはいる。
しかし彼の呟きは後方の友軍に対してのものではなかった。
それは部下である隊員、荒鷹達への言葉であった。
板谷茂少佐、二つの戦闘機隊のうちの一個分隊を指揮する分隊長が彼の名前であり、今の肩書である。
部下である八名の隊員は自分の宝である。
家族も同様、何処ぞの親類よりかはずっと上の、苦楽を共にしてきた最高の友でもある。
しかしこの戦闘でその八宝を失うかもしれない。
自身の死の恐怖は微塵もなくなっていた。
かわりに部下の死…彼の頭の中はその恐怖に満ちている。
敵のバッファロー隊は無秩序に向かって来ていた。
これから一戦を交えるであろう敵……
(彼らも同じなのだろうか)
板谷は考えていた。
彼らも友を慈しみ、この戦いに挑んでいる。
しかしその親友を失った時は何を感じるのであろうか。
やはり感じることは同じだろう。
そしてそれを奪う立場にお互いはいる。
相手を知らないことがせめてもの救いだと板谷は思った。
戦いは避けられないものであり、部下を助けるには相手を倒さねばならないのだから……
もはや敵は射程に入った。
敵ももちろん同様である。
板谷は捍を傾け、戦闘の体制に入った。
他の零戦も同様である。
弾丸のように突っ込んでくる敵機は、編隊の合間を縫うように機銃を乱射しながら抜けていく。
旋回し、再びその機銃四挺の大火力の応酬を浴びせようと各機体はその体を持ち上げた。
一機の機体が炎を上げる。
日本機……違う、米軍機であった。
日本の誇る零戦はいち早くその機体を翻し、未だ旋回途中のバッファローを襲ったのだ。
機体を起こし、その無防備な体を晒していた相手は絶好の的となっていた。
ここぞとばかりに取っておいた20mmの銃弾は、主翼をえぐり、胴体をエンジンごと貫いた。
機体は炎上し、天を仰ぐその機体は減速する。
一瞬の停止の後、それは黒い煙りをたてながら墜ちていった。
板谷も歯を食いしばりながら操縦桿を握り、必死に敵機に食らいついている。
「くっ!」
なかなか敵を捉えられない。
毎時数百Kmの重みが体にのしかかり、自然と息が漏れだした。
今だと板谷は直感的に感じた。
機銃のトリガーを引き、両翼の二門の口から火弾が放たれる。
幾筋もの弾道は相手を捉えようと殺到し、そして逸れていく。
相手も振り切ろうと必死なのだろう。
必死に体をよじらせ弾を避けている。
しかしそれも虚しく胴体は爆発と同時に黒煙を上げ、操縦を失った機体は、空を背に墜落していった。
板谷は息着く暇もなく次の目標を探し辺りを見渡した。
しかしもはや辺りに敵はいない。
全機撃墜したのだ。
この時アメリカの飛行兵は零戦の特性など全然知らないに等しかった。
三十機いたバッファローは堅牢な戦闘機であったが、運動性能では零戦には分が悪かった。
不幸にも日本機と軽んじ、格闘戦に持ち込んだ米軍機は逆に相手の土俵で戦うことになり、空の土俵から蹴落とされていったのだ。
ものの数十分の出来事であった。
「よし、やったな。」
すーっと力が抜ける。
板谷は一息着くが、未だ敵地の上空である。
緊張感は再び到来し、信号弾を打ち出すと部隊の編成に取り掛かった。
友軍は空の彼方に消えており、そちらの追っ手は心配ない。
零戦は再び編隊を組みさっきと同じように飛行している。
一、二、三……
西に向かう部隊の中で板谷は必死に数を数えていた。
しかしその懸念の相も次第に緩み、一番の肩の重しが外れたのだろう、さっぱりとした笑顔で母艦赤城へ向かっていった。
戦場の荒鷹が空の王者に君臨した瞬間である。
鷹の目は遥か水平線の向こうを見続けていた。
こんばんは天照です。
なんだか戦闘がこじんまりとしてしまい申し訳ありません。
誰か戦闘の描写をアドバイスしていただけると非常に有り難いのですが、みなさん小さいことでもいいのでご教示ください。
さて、みなさん零戦といったらどんなイメージがあるんでしょうね?
機体色は白ですか緑ですか?
航続距離はどうでしょう?
様々な型の零戦がありますけどやはり二一型が一番そのイメージにあうものなのでしょうかね。
さて、取り留めもない話で申し訳ありませんでした。
ではまたの機会に
失礼します。