トラ・トラ・トラ!! 我奇襲ニ成功セリ!
第一次攻撃隊は既に全機空に上がっていた。
加賀の攻撃隊も同様である。
両隊合わせて71機の航空隊だ。
戦闘機隊、爆撃隊、雷撃隊がそれぞれ編隊を組み、まるでこの太平洋を横断する渡り鳥の様にV字型に飛行している。
赤城、加賀の艦上には既に第二波の準備が始まっており、此処までは順調に進んでいるようだ。
赤城攻撃隊の淵田美津雄中佐は総指揮官として九七式艦上攻撃機を駆り、目的地であるハワイオアフ島に向かっていた。
「おいお前ら、下を見てみろ。戦艦長門だ。」
淵田中佐は同乗している兵士にそういった。
九七式艦攻は三人乗りの攻撃機である。
操縦、爆撃、計器操作とそれぞれ役割が割かれており、仕事にあたっている。
話を振られた後ろ二人は、頭を左右に動かし、雲の合間から下を覗いた。
あれは比叡だ、陸奥だと口々に言っている。
実際に下を見れば、単縦陣で航行する戦艦部隊が見えた。
戦艦長門をはじめとする合計6隻の部隊だ。
長門、陸奥、伊勢、日向、比叡、霧島…
金剛型戦艦が全て投入されていないのは、既に南方作戦への投入が決定されていたからである。
作戦はハワイ作戦だけではないのだから、山本長官もそこは突っ込まなかったのであろう。
仕方のないことである。
「しかしよくもまたこれだけ大量に集められたものだな。」
淵田は既に視線を前方に戻しこう言った。
「それだけ期待を掛けているということですよ。我らが日本帝国が誇る戦艦部隊が向かうというのはそういうことです。これならば成功間違いなしですね。」
後部の部下はそう言うと、どっと笑った。
「だと良いがな。」
淵田はこれだけを言うと、しばらく黙ってしまった。
笑った兵士が気まずい雰囲気にすぐにしょげてしまったのは言うまでもない。
(何故軍令部はこれほどまでの戦艦を投入したのだろうか?)
淵田は心の中で疑問を持った。
伊勢型戦艦は燃費の問題から、実用性が乏しく許可がでるのは比較的容易だろうが、長門、陸奥は最新鋭の戦艦だ。
山本長官は一体どんな手を使ったのだろうか?
空母投入が頓挫し、それよりも重要な戦力である戦艦投入に許可が下りるとは…
淵田の視線は前を向いていたが、意識は完全に違う世界に行っていた。
淵田はこの作戦の直前まで参謀を務めていた。
飛行隊長は参謀よりも格下である。
つまり降格ということだが、これは作戦立案者であった親友源田実のたっての願いだった。
これにより、第六航空戦隊就きの参謀から、飛行隊長に転任したのである。
元が参謀経験ということもあり、こういうことが容易に想像できたのである。
「中佐!見えましたよ!」
後ろからの声に淵田ははっと我に返った。
目を凝らすと水平線の上には緑色の隆起が見える。戦艦部隊は既に後方にあり、あの島々よりも小さな黒点になっていることだろう。
そうこうしているうちにハワイ諸島は近づいて来た。
緑色の隆起は次第に輪郭を帯び、一つ一つの島が認識出来るようになってきた。
茶色、緑、橙とその色彩も豊かにはっきりとしてくる。
「後は発見されないことを祈るだけだ。此処からが本番だぞお前ら。神経を研ぎ澄ませよ。」
「はっ!」
淵田の激に後部の二人が答えた。
息遣いが荒くなっている。
未だに敵は見えないが緊張しているようだった。
「緊張するな。訓練を思い出せ。こんなことで参る胆の小さな男じゃ誰も嫁いじゃくれんよ。」
「はい…」
一人が答えた。
必死に平常心を保とうと、努力しているのがわかる。
ニイハウ島の南端を抜け、カウアイ島を通過し、目的のオアフ島はすぐ目の前に迫っていた。
此処まで航空隊は一切誰の目にも触れずに来ることが出来た。
いや、見られていたかもしれない。
しかし何の反応もないことから、攻撃隊の皆は成功を確信していた。
「よし、オアフ島だ。全隊飛行隊長に打電、各隊任務遂行を尊守せよだ。」
「わかりました。全飛行隊長機に打電、『各隊任務遂行ヲ尊守セヨ』」
通信係の最後部の兵士が電文を送っている。
遂にオアフ島上空に到達したのだ。
島の南部は平地が広がっていて、連なる山々は島の北部に見えた。
真珠湾が見える。島の内部に入り込むその港は、外洋からも容易に見ることができる。
淵田は双眼鏡でその様子を確認した。
一隻、二隻…
そして乱暴にそれをしまうと、口元にやったと笑みを浮かべ、こう言った。
「よし、敵艦隊を確認した!司令本部へ打電『我奇襲ニ成功セリ』」
此処で淵田は深呼吸する。
そして運命の一言を発した。
「『トラ・トラ・トラ』だ!」
こんにちは。
ようやく次回戦闘シーンになりますね。
もしかしたら、戦艦部隊の航行シーンになるかも知れませんが…
此処いらで上手く表現出来るようになりたいですね。さて、史実の真珠湾攻撃でもトラ・トラ・トラを打電したのは淵田美津雄中佐でした。
そののち信号弾を撃ち、奇襲攻撃に入ったようです。
史実ではもっと大部隊でしたが、今回は71機と少ないので、やはり手が回らないのかなあ…
次話は史実の奇襲よりも強襲じみてるかもしれません。
最後に感想などお待ちしています。
直した方がよいところ、要望などがあればどしどし寄せてください。
では、失礼します。