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初めての贈り物

作者: 辻谷千晴


クリスマスの朝。

外は雪で真っ白。まだ足跡一つもない朝のこと。

ちぃちゃんは布団の暖かさに包まれてすやすやと寝ていました。

寝返りをうつと何かが鼻にコツン、と当たりました。

驚いて目を開けます。


「……だぁれ?」


そこには枕元には小さなお布団でぬくぬくと暖まるハリネズミさんがいました。

よく見るとトゲはふわふわ、どうやらぬいぐるみさんのようですね?


「もしかして、新しいお友達なの?」


首を傾げて訊ねると、ハリネズミさんの目がパチリと開きます。目をゆっくり擦りながら身体を起こしました。


「もう、お引っ越し先に着いたのかぁ」

「新しいお友達じゃないの?」


ちぃちゃんの家には、お友達がたくさんいます。

気分屋のナキウサギさん、のんびりやのシロクマさん、まんまるなヒヨコさん、食いしん坊のメキシコサラマンダーさん……本当にたくさんのお友達がいます。


「あれぇ?君は誰だい」

「ちぃちゃんはちぃちゃんだよ」

「君の名前はちぃちゃん?いい名前だねぇ」

「ハリネズミさんのお名前は?」


ハリネズミさんと目を合わせて訊ねるちぃちゃん。ハリネズミさんは顎に短い手を当てて考え込みます。


「僕は……ああ。まだ名前を貰っていないんだっけ」

「お名前ないの?」

「残念ながらまだないんだよなぁ、これが」

「……私がお名前考えようか?」

「それはいい考えだねぇ、嬉しいよ」


名前を考えるのが苦手なちぃちゃんですが、一生懸命考えます。


「ハーくんはどう?」

「あまりかっこよくないなぁ」


苦笑いで言われました。ハーくんだとお気に召さないようです。

ちぃちゃんは、ネーミングセンスがないとよく言われます。


「ハリーくんならかっこいい?」

「ちょっとかっこよすぎるなぁ。もうちょっとだけ可愛いのがいいよ」


名前というものはとても大事なものなので、たくさん案を出して満足するまで考えます。

みんなの名前を考えた時だって、そうしてきました。


「ハリネズミさんはコロッケ大会が好きなんだっけ」

「他のハリネズミくんはそうなのかい?」

「ハリネズミさんは好きじゃないの?」

「コロッケは美味しいから好きだけど、大会を開いたことはないかなぁ」


残念、クロッケーです。

槌代わりにフラミンゴさん、ボールの代わりにハリネズミさんを使ってクロッケー。

ちぃちゃんはそんなお話を聞いたことがあったのです。


「コロッケ大会に、アリスって子がいたからアリスちゃんは?」

「それは可愛くてかっこいい、最高の名前だねぇ!」


ハリネズミさんはとびあがって喜びました。


「今日から僕の名前はアリスだ、ちぃちゃん」

「アリスはお引っ越し祝い、まだだよね?」

「ああ、そうだねぇ。もしかして僕が来る前にクリスマスパーティーは終わってしまったかい?」

「クリスマスパーティーは今日だよ。でも、コロッケはあるかわからないや」


ハリネズミさん改め、アリスは優しげな笑顔を浮かべています。

そして、しょんぼりと申し訳なさそうに言うちぃちゃんの頭を撫でました。


「僕は特別コロッケが好きな訳じゃないからねぇ。美味しそうなものなら何でも大歓迎さ!」

「……本当?」

「嘘はつかないよ」

「パーティーはね、ケーキがあるよ。とっても大きいやつ」

「それは嬉しいなぁ」

「お花とか苺とか乗ってる青いケーキなんだよ」

「そのケーキの上にお砂糖のサンタさんは暮らしているかい?」

「サンタさんのお家とツリーはもっともっーと大きいケーキの上にあるんだよ」

「それは見てみたいなぁ」

「フルーツに囲まれて暮らしてるんだって、毎年言ってたよ。見に行く?」

「ああ、行ってみよう!」


さっそく家から出てトコトコと歩きます。道のりは長いですが、お喋りしながら歩けば苦ではありません。


「サンタさんのおうちはいつもここから運ばれるんだよ」

「……登るのが大変だったけど、来たかいがあったよ」


木のアスレチックを登った先には大きな大きなケーキが見えました。上から見ないとサンタさんがどこだかわからないくらい大きなケーキです。

アリスちゃんよりも、ちぃちゃんよりも大きなケーキでした。


「このケーキは柔らかいから触っちゃダメだよ」

「どのくらい柔らかいのかなぁ?」

「触ったらへこんで戻らなくなっちゃうくらい、柔らかいの」

「なんだって!?それは大変だぁ!」


そんな柔らかいケーキを見たことがないハリネズミくんは驚きました。


「それとね、ケーキがくっついたら水の中でぐるぐるしないとダメなの」

「こんなに寒いのにかい?それはたまったものじゃないよ……」

「じゃあ、大家さんが来る前に帰ろう?」

「そうしようか」


家に帰るとお友達が大慌てでこちらに来ました。

メキシコサラマンダーのウパくんです。


「たっ、たっ、たっ、たー!」

「どうしたのかなぁ、彼」

「どうしたの、ウパくん」

「大変なんだあぁぁ!ケーキが……ケーキがぁっ!」

「ケーキがどうしたのかなぁ?」

「ウパくん、ケーキがどうしたの?」

「ケーキが、ケーキがとっても大きいんだぁ!」

「「え?」」


きょとんとする二人の手を引いてウパくんはケーキの所まで連れて行きました。


すると、そこには5色のクリームが使われたとても大きなケーキがありました。


「これくらい大きいならかくれんぼの時に隠れられそうだねぇ」

「大家さん、大きいケーキのセットを買ってもらったみたい」


お菓子みたいな小物を作って遊ぶオモチャ。

パステルカラーのクリームがとても美味しそうで、ラインストーンもフルーツも輝いて見えます。


「今年のクリスマスはとってもいいクリスマスだね」

「ケーキもあって、お友達がたくさんいる家に来れて本当に僕にとって幸せなクリスマスだよ」

「一つ忘れてるよ?」

「あれぇ?そうなのかい?」

「大家さんからお名前貰ってないでしょ?」

「……ああっ!」


その時です。ドンドンと大きな足音が聞こえてきました。


「本当だ!ハリネズミだ!」

「サンタさんのプレゼントだね」

「ママ!ハリネズミにもツリー見せたい!」

「その前に名前をつけてあげるんじゃなかったの?」

「そうだった」


大きな足音はどうやら大家さんのようです。大家さんのお母さんもいるのか、人間の少女の大家さんと大家さんのお母さんの声が聞こえました。


「今日から君の名前はハーちゃんね」


ハリネズミさんの名前は、ハーちゃん・アリスとなりました。

アリスは大家さんの手のひらに寝っ転がるようにして掬い上げられました。

大家さんが走るせいで、大家さんの手のひらより少し小さい身体はあっという間に見えなくなります。


「いってらっしゃい」


ちぃちゃんもよく遊びに連れて行ってもらったことを思い出します。

しばらくはその役目をアリスに譲ってあげようと笑いました。

大家さんに連れられたツリー観光の旅から帰ったアリスは言います。


「君のネーミングセンスは大家さん譲りだったんだねぇ」


ぬいぐるみのシェアハウスの入居者はたくさんいます。

ハリネズミのハーちゃん・アリス。

ナキウサギのうさちゃん・ミツキ。

シロクマのしろくん・マーク。

ヒヨコのピヨちゃん・フラン。

メキシコサラマンダーのウパくん・モモ。

そして、チワワのちぃちゃん・クロード。


「大家さんの名前って安直だってみんな言うけど、ちぃちゃんは大好きなんだよ」

「君って変わり者だなぁ」

「でも、名前貰って嬉しかったでしょ?」

「もちろんだよ。君に貰ったのも、大家さんから貰ったのも僕の宝物さぁ」


ちぃちゃんはその言葉を聞いて嬉しくなりました。


「名前は初めての贈り物って言うからね」


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― 新着の感想 ―
[良い点] みんなすてきな名前をもらってよかったですね。 ちぃちゃんの『クロード』は自分でつけたのでしょうか。
[一言] 名付けは大事! 楽しいお話でした^_^
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