第9話
話を聞くと、トヅチさんは私をテイラの専属ハンターの後任に推薦したいらしい。しかし他の人々は乗り気ではないようだ。
「だがユーカさんは属性魔法が使えないんだろ?」
ギルド職員と思われる1人が確認してくる。
「でもユーカさんは茶色大熊を1人であしらえる実力があるんだぞ!」
「そうは言うが、最弱の攻撃魔法で茶色大熊を追い返すなど信じられない。その話が本当だとしても間違いなくたまたまだろう。」
「第一茶色大熊は追い返せるかもしれないが、魔物相手ならどうするんだ?あいつらは完全に仕留めるまで襲ってくるぞ?」
「ただでさえこんなDランクのぺーぺーに専属ハンターを任せること自体不安なのに、属性魔法が使えないなんて絶対専属は務められないだろ。」
「今この町にDランク以上のハンターはいないから、本部にそこそこ有能なハンターの派遣を申請したほうが確実だろうな。」
私フルボッコである。ちなみにテイラの専属ハンターになりたいなんて一言も言っていない。理不尽な口撃にちょっと落ち込む。
「とりあえずユーカさんの依頼履歴を確認したい。ユーカさん、ギルドカードを貸してもらえるか?」
職員の1人に求められて、ちょっと躊躇した後しぶしぶ自分のギルドカードを渡した。ハンターギルドにはギルドカードを通して依頼の受注や完了、履歴の確認が行える魔道具が必ずあるのだ。しかし依頼の履歴の確認まで行われるとは、相当佑華は信用できないと思われているようだ。履歴を確認しに行った職員の背を見ながら、ますます落ち込んでくるのを感じる。
同時に私は困っていた。自分は旅をしたいのであって、どこかにとどまる気はないのだ。しかし明らかにハンター不足であるこの町の助けになりたいとも思ってしまう。しばらく考えて、私は小さく手をあげた。
「あの、1つ確認いいですか?」
「む、なんだ?」
私の問いに一番横柄そうな職員が反応する。
「仮にギルド本部に専属ハンターの派遣を申請した場合、実際にハンターが来るまでどれくらいかかるんでしょうか?」
「ううむ、最短でも一か月はかかるだろうな。しかもこんな辺境の町の専属になりたがる優秀なハンターなんてなかなかいないだろう。前のやつも左遷同然でここに来たからなあ…。」
横柄そうな職員の言葉を聞いて、一同は落ち込む。もし長期間専属ハンターが不在になると、もしもの場合対応出来ないのだ。それは避けたいのだろう。
そこで私は折衷案を提示することにした。
「では、正式な専属ハンターはハンターギルド本部に要請して、専属不在の間は私が代理を務めるというのはいかがでしょうか?」
「むっ?!」
私の提案に一同がざわつく。テイラのハンターギルドは本部から優秀なハンターが来るまでの期間をカバーできるし、私はテイラの町の手助けができて時期がくればまた旅に出れる。なかなかいい提案ではないかと私はちょっと自己評価を高くした。
「…結論を出すのは待ってくれ。君の今までの実績も踏まえて考慮する。」
ギルド職員の言葉に私は反論せずうなずく。町専属のハンターはDランクあれば就任できるが、本来は十分実績を積んだCランク以上のハンターが望ましいのだ。難しい判断だろう。自分は依頼成功数こそ多いがしょぼい依頼ばかりをこなしてきたので、実績もおそらく加点にはならない。しかし別に町専属ハンターになることにこだわっていくわけではないので、別に自分の提案を断られてもかまわなかった。
とりあえずギルド職員たちの議論が終わるのを待とう、そう思って佑華が再び貼り出された依頼に目を向けたときだった。ギルドの入り口が突然乱暴に開かれ、女性が1人飛び込んできて叫んだ。
「助けてください!セムが!私の息子が帰ってこないんです!」
<あら、次々厄介ごとが舞い込んでくるみたいね。巻き込まれ体質は相変わらず健全ね。>
相棒のくすくす笑いを背に私は天を仰ぎたくなった。自分の遍歴を考えるとまったく否定できない。もはや勇者の力のない、ちょっと裏技が使えるだけのハンターにはあまりにも過酷な体質だと思う。
<たぶん巻き込まれる、いざとなったら手助けよろしく。>
<もちろん。いつも通り、できるだけ手は出さず、必要な場合は存在がバレない程度に、でしょ。>
<そうそう、ありがとう。>
相棒とのやりとりを手早く終わらせると、私はいまだにがっつり肩を掴んでるトヅチさんに引きずられるように先ほどの女性のもとに向かった。
そろそろ放してほしい、地味に痛い。