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第8話

 私は相棒に心の中で呼びかける。

<逃げた茶色大熊と魔の森の様子はどう?>

 すぐに返事が聞こえる。

<熊さんはもうこっちに来る様子はないわ。他に獣や魔物は近くにはいないみたい。でも最近魔物の活動が活発でおかしいって植物たちが言っているわ。>

 ちなみにこの声は意図しない限り私にしか聞こえない。実際にトヅチさんは反応していない。相棒の存在にすら気づけていない。

 ちらりとトヅチさんの様子をうかがうと、陽気に口笛を吹いている。私が属性魔法が使えないとはいえそこそこ戦えると知って安心したようだ。私が最弱のはずの魔力弾で茶色大熊を撃退したのに気を取られて、なぜ私が茶色大熊の接近に気づけたのかという疑問は持っていないようだ。いろいろ助けてくれる相棒の存在は可能な限り明かしたくないので、指摘するつもりはない。

 トヅチさんを見ていると、さっき兄ちゃんと呼ばれたのを思い出して何となく面白くない気分になってきた。気を紛らわすために寝返りをうつ。女性の一人旅すら珍しいこの世界で、女性がソロのハンターをしているのはあまりにも非常識らしい。念のため顔を隠している私は、声変わり前の少年として扱われるのがもはやデフォルトである。女性だと知られると厄介なこともあるので少年だと思われるほうが都合はいい、とは言えやはり面白くない。

 いっそ顔を隠すのをやめようかと考えながら、私は自分の前髪をつまんで光にかざす。勇者の力を奪われる前はキンキラキンだった髪と目は今は灰色になっている。勇者の代名詞である金目金髪がないから大丈夫だとは思うが、顔つき自体は勇者時代と何ら変わっていない。用心するに越したことはないだろう。あともし顔出ししても少年扱いだったらへこむ。

 ちなみに胸部は2年前と同じく軽量装甲だった。これも大問題だが、さらに問題なのは背が少しも伸びないのだ。考えたくないが、もしかしたらこの肉体は成長、老化スピードが普通と違う恐れがある。その場合、人族の社会でずっと暮らすのは難しいかもしれない。

 まああんまり先のことを考えてもしょうがいない、私はめんどくさくなって考えるのをやめた。

<私には相棒がいればいいもんね。>

<?ワタシは佑華とずっと一緒にいるわよ?>

 唐突な心の独り言にも優しく答えてくれる相棒はやはり最高だった。


 茶色大熊の襲撃以降は、特になんの危険もなく目的地のトヅチさんの町、テイラに到着した。テイラは魔の森に近く、魔物に襲われる可能性を考えて、頑丈そうな高い壁に囲まれている。しかし壁の内側の建物は多くが修理されている、または修理の途中だった。仮設の小屋らしきものもちらほら見える。しかしこれはこの町だけの特徴ではない。まだあの聖戦から1年しか経っていないのだ。ほとんどの町が復興の途中なのだ。しかし、建物がぼろぼろでも多くの人が道を行きかい、みんな明るい顔をしている。聖戦を終わらせてからの旅の行く先々で私は同じような光景を目にしてきた。そのたびに少し救われた気持ちになる。この世界に来る前とは違い、私の手は血で汚れてしまった。例え停戦協定のためとはいえ命を殺めた過去は消えない。犯した罪を償うつもりで、私はこの旅の途中1人のハンターとしてでできるだけ人の助けになれるよう行動してきた。その行為はきっと自己満足でしかない、それでも、一時の気晴らしに過ぎないとしても、だれかの笑顔を見るのが私は嬉しかった。

トヅチさんに連れられてテイラの町のハンターギルド支部へ行き、そこで護衛依頼成功の報告を行い、トヅチさんから報酬をもらった。その額は決して多くはない。

「悪いなユーカさん、ちゃんと守ってくれたのに、これだけしか払えなくて。」

 トヅチさんは申し訳なさそうな顔をするけど、ちっとも気にならなかった。もともと行先を特に決めていない旅の途中だ。私にとって護衛は楽に移動できるうえにお金ももらえるおいしい依頼なのだ。そのことを説明すると、トヅチさんは納得した。

 トヅチさんが受付に声をかけてギルドの奥へと行くと、私はボードに貼り付けられた依頼を見に行った。適当に行動してたどり着いた町で、塩漬けになったり緊急性があったりする依頼を地元ハンターの邪魔にならないように消化すると、またフラフラと次の町に向かう、という日々を1年前から送ってきたのだ。必然的に報酬はあまりおいしくない依頼ばかりしているので、こなした依頼の数の割には受け取ってきた報酬は少ないが、あまり贅沢をしたいと思わないのでお金には困っていなかった。

「うーん…。」

 私はテイラの町の依頼を見て思わずうなる。緊急性があったり、塩漬けになったりしている依頼はないようだが、ほかの町と比べて大量の依頼が貼り出されていた。魔の森に近く、復興途中の町なので、困りごとが常に発生し続けているようだ。明らかに依頼の数に対してハンターが足りていない。

 これはここのハンターギルドの職員と相談して、地元ハンターの邪魔にならない程度に自分も通常の依頼を消化したほうがいいかもしれない、そう考えていた時だった。ギルドの奥が騒がしくなったと思ったら、トヅチさんと数人の人物がなにやらもめながら出てきた。そのままこちらに向かってくると、トヅチさんはがっつりと佑華の肩をつかむ。

「だから!ユーカさんはこの町の専属ハンターができるぐらいの実力があるって言ってるだろ!」

 自分がなんかめんどくさそうなことに巻き込まれたことを察してため息をついた。可能なら逃げたかったがトヅチさんの握力は非常に強かった。一応ハンターの私より強い農夫の握力。解せぬ。


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