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巫蠱の王子様

 そして今、わたしの主は何故か巫蠱の術について学んでいる。

 怪しい書物も手当り次第に読みまくり、高名な道士と聞けば住居へ押しかけようとするという具合である。

 だが、巫蠱の術とは人を呪う技のことなのだ。効力の有無はさておき、現在は法律でしっかり禁術とされているもの。それを大っぴらに尋ね歩こうとするような莫迦は普通居ない。やり方を本当に知っている人物の有無も不明だが、私は出来るぞと公言する者など居るはずもない。それとなく匂わせて周囲に脅威と思わせるような者はいるだろうが、こういう時、主の無駄に豊かな行動力とささやかな経済力が非常に疎ましく思えて仕方ない。一人の美女に恋をするまでは普通に善良だった青年が、僅か一年足らずで人を陥れる術を学ぼうとするようになるなど、誰が思いつくだろう。

 正直、主のような身分の者なら刺客を雇って直接危害を加えさせた方が楽なはずだ。そうしなかったのは、残った宮女に悪評が付くのを恐れてのことだそうだ。そのためにわざわざ巫蠱の術という、不確実な方法で相手を陥れようとするという考え方は少々迂遠すぎる。そう思っていたのだが。流石に腐っても末端でもほぼ平民でも皇族である。「相手方がそうやって貶めようとしている」という方法もあるのだとか言われた日には、流石に遠い目になった。面倒臭え! と全てを投げうちたい気分である。いっそ主を何処かへ投げ捨てて来たくなったのだが、そういう訳にも行かない。



 そうこうしているうちに、やり方を幾つか学んだ主は、ある日決行するとか言いだしやがって下さった。全く、迷惑なことである。うっかりするとわたしが巻き添えになるではないか。いや、うっかりしなくても道連れになるのはほぼ確実だろう。寧ろ側に仕える者が代わりに濡れ衣を着せられて闇に葬られるという展開もありえそうだと気が遠くなりかけたが、正気を失う事態になっては逃げるものも逃げられない。とりあえずいつでも逃げられるように最低限の衣類と金子は整えて置くことにしようと心に決めた。もう遅いかも知れないが。

 沐浴を済ませた主は白い衣を纏って何やら手紙のようなものを燃やしている。あっという間にそれは灰になった。寧ろ殆ど残っていない。どうすんだよ、それと心の中で呟いているのが目に見えるような従者は主から結構な距離を取っていて、いざという時逃げようとしているのが良く判る。

 元々、生活については王子であるだけに、大半は側仕えが手伝うので、基本的に手際は良くはない。まあ一生懸命なのは見てとれるので、誰も咎めはしないが。手紙を燃やした時に白い衣に火が移りそうになったり、予め燃えない皿を用意しておかなかったせいで灰が土の上に散らばってしまい鷲掴みにした手が紙に僅かに残っていた火で火傷して、慌てて水を掛けるという事態になったりしているが、多分それを言ったところでまともな返事は望めない。白い衣は所々黒くなったが、本人が生きていればいいのだ、と遠慮なく放置することにした。



 主が何をしたかったかが不明だったので、周囲の者は手伝いも助言も一切出来なかっただけだが。

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