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淑女選び

 十月になって、新年を迎えた頃である。

 彼は、一人の麗しい女性に恋をした、らしい。

 都中の美しい娘千人を集めて選りすぐって百人を選び、またその中から十人を選んで宮女とするというお触れが出た。英雄色を好むというし、先々を考えるとある程度目端が利く者は見なかったことにしてもっと堅実な方へ行くものだが、危険度は高めにしても上手くいけば見返りが大きい賭けでもある。己が美貌に自信を持つ娘などは挙って応募し、ちょっとした興行のようなものになった。

 そこまではいい。良くあることだ。良くはないが。

 宮女十人に選ばれたうちの一人、その中で最も美しいとされたのは、極めて身分の低い娘だった。貧しい親が病にかかり、その薬代を工面するために身売りしようとしていたところ、とある豪商の目に留まって応募させられたようだ。作法の拙さは歴然としていたが、確かに十人いれば十人が確実に振り返るだろう美貌。玲瓏たるその美質もさることながら、その涼やかな視線は人々の目を釘付けにした。天衣無縫とはまさにこのことか、と強かに膝を打った人も少なくなかった。打ったあとはかなり痛かったようだが、まあそれはそれ。

 宮城に伺候した折に遭遇したわたしの主は、一目その娘を見て、魂を抜かれたようになった。ここまでは止むを得まい。老いも若きも男も女も皆、都で選りすぐりの美女たちに夢中になっていたのだから。だが、大半の者は数日もすれば現実に戻ってきてくれた。戻ってきてくれなかったのは、わたしの主を含めて数人程である。そして気が付くと彼等はいつのまにか熱烈なその娘の庇護者団体を自称していた。しかも始末の悪いことに、権力と金と暇ばかり豊かに持っている者が大半だった。

 最初の一月ふたつきほどはまだ良かったと言える。宮城内の要所要所の空き部屋に同好の士だけで引き籠っては件の美女について語り合うだけだったのだ。それが徐々に妙な勢力となっていく。誰か止めろよ、と思ったのはわたしだけではなかったはずだ。当事者の身分が身分なだけに止めようがなかっただけで。

 それはさておき。宮女十人それぞれに、いつの間にやら庇護団体ががっつりしっかり出来ていた、と気付くのは、一月を迎えた頃だった。僅か二ヶ月程の間に、凄まじいことである。

源義経の母がこういう風に選ばれたそうなので参考にしてみました。

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