束縛
「これでいいかしら?」
「ここの角が少しずれている、直すように」
―――ショーケースに並ぶカードが少しだけ、ずれている。
「……あなたって、本当に細かいのね」
「几帳面であることは長所だと、認識している」
―――ショーケースに並ぶカードが、美しく整列した。
「本当にA型っていうか。典型的なA型人間って感じがするよ」
「血液型は関係ないだろう。僕は僕という個人であり、血液型という括りで決めつけないでくれ」
―――ショーケースに並ぶカードを、満足げに見つめる、男性。
「そう?でもあなた、とても血液型占いの特徴を持っていると思うけれど」
「失礼な話だ、その辺の一般人と一緒にしてもらっては困る。僕という個人を見たまえ」
―――ショーケースに並ぶカードを、ぼんやりと見つめる、女性。
「別に私の意見は、私が自由に持ってもいいものでしょう?」
「持っても構わないが、それをわざわざ伝える必要はない」
―――ショーケースに並ぶカードを、満足げに見つめる、男性。
「では、私はあなたに、何を伝えたらいいのかな?」
「僕個人に対して思う、君の素直な、感情を」
―――ショーケースに並ぶカードを、ぼんやりと見つめる、女性。
「あなたは、私にとって…そこら辺にあふれているA型の人の一人でしかない」
「血液型は、関係ないと言っているじゃないか!!」
―――ショーケースに並ぶカードを、ぼんやりと見つめる、女性。
「血液型は、関係ないけれど。でも、無関係では、ないかな?」
「どういう意味だ?僕はもう、血液の話をするつもりはない」
―――ショーケースに並ぶカードを、ぼんやりと見つめる、女性。
「ねえ、このカードを見て、どう思う?」
「美しく整列しているね。僕と君の成果だ」
―――ショーケースに並ぶカードを、ぼんやりと見つめる、女性。
「……カード一枚一枚を見ようとは思わない?」
「一枚一枚堂々と誇らしげに並んでいるね、見事な配列だとしか言いようがない」
―――ショーケースに並ぶカードを、一枚、二枚と、拾い上げる、女性。
「何をするんだ!配列が乱れるじゃないか!!!」
「あなたのカードには、一切触れていないから、安心して?」
―――ショーケースに並ぶカードを、次から次へと拾い上げる、女性。
「そういう事を言っているんじゃない!やめるんだ!!!」
「このカードは、私のカードなの……あなたにどうこう、言われたくないな。」
―――ショーケースに並ぶカードが、どんどん減ってゆく。
「あああ!せっかく並べたのに……なぜ、こんなことを」
「私、どうしても…A型人間が、好きになれなくて。」
―――ショーケースに並ぶカードが、どんどん減ってゆく。
「血液型ではなく、僕を見るんだ!!!」
「私、どうしても…あなたが一般的なA型人間にしか思えなくて。」
―――ショーケースに並ぶカードが、どんどん減ってゆく。
「だから!!!僕という個人を見ろ!大多数のA型人間と一緒にするな!!!
「大多数の一人でありたくないのなら、私じゃない誰かの唯一になれば良いと思うの」
―――ショーケースに並ぶカードが、どんどん減ってゆく。
「君の唯一でなければ、意味がない!!!」
―――ショーケースに並ぶカードが、どんどん減ってゆく。
「でも私はあなたを唯一と思えないし、思いたくないもの」
―――ショーケースの中から、女性のカードが一枚もなくなった。
「あなたと同じショーケースには、並びたくないの」
―――女性がカードを確認している。
「細かいルール、奇妙なこだわり、つまらない常識……あなたに合わせて並んでみたけれど」
「あなたは自分のカードと共に並んでいることに満足して、私のカードを見ようともしなかったわ」
「美しく並んでいる私のカードには、ずいぶん伝えたい気持ちが溢れていたのだけれど」
「私は、あなたと共に美しく並び続けたいと……思えなくなってしまったの」
「僕は並びたい、並ばせる!!そのカードを…貸せっ!!!」
バララララら……!!!!
―――女性のカードが、辺り一面に散らばり……スッと、消えた。
「あ、あああ!!!カードが……カードがっ!!」
「私の知らないところで、あなたはあなた個人を謳歌したらいいと思うよ」
―――恋愛というショーケースに、男のカードだけが並んでいる。
「大多数の中の一人としてでなく、あなた個人を見つめてくれる人が現れるといいね、さようなら」
―――恋愛というショーケースの前から、女性が消えた。
「こんにちは、カードを並べてもいいですか?」
―――恋愛というショーケースの前に、新しい女性が現れた。
「ええ…どうぞ。穴が開いているので、そこを埋めていって下さい」
―――ショーケースに、女性のカードが並べられてゆく。
「キチンと揃えて並べてくださいね」
「……これでいいですか?」
―――ショーケースに、女性のカードが並べられてゆく。
「ああ、奇麗に並んだ、これは素晴らしい!!」
「でも、見た目だけですよね?」
―――ショーケースに、女性のカードが並べられてゆく。
「ここ、入れ替えた方が良いと思いますよ」
「このカード、汚れてるから捨ててください」
「ここ、順番おかしいから置き換えました」
「このカードは書き変えないとダメな奴です」
―――ショーケースに、みっちりと並んだ、カード。
「僕のカードを勝手にいじるのはやめて頂きたい!」
「あら、でもいじらなければ、美しくならないわ?」
―――ショーケース内に、規則正しく、美しく並ぶ、カード。
「なぜ勝手なことをするんだ!!!」
「こんなに美しくなったのだから、いいでしょう?」
―――ショーケースに並んだカードを、誇らしげに見つめる、女性。
「とても美しいわ、もっと美しくしていかねばなりません」
「もうやめてくれ!!!」
―――ショーケースに並んだカードを、憎々しげに見る、男性。
「ここも改善の余地がある、ここも余裕がある、ここは広げたらより魅力が増す……」
「やめろといっている!!!」
ガッシャアアアアアアアん!!!!!!!
―――男性がショーケースをぶち壊し……欠片もカードも、消えてしまった。
「あら、何でそういう事をするの?」
「僕はもう……カードを並べたくなど、ない」
―――男性はただ漠然と、立ち尽くしている。
「せっかく、奇麗に私とあなたのカードが並んでいたというのに」
「それはあんたの自己満足だ。俺は認めてなど……いない」
―――男性はただ漠然と、立ち尽くしている。
「あら、そう?でも私は、あなたを認めているのだけど」
「あなたという存在は、この世にたった一人ですもの」
「あなたと出会えて、本当に幸せよ、私」
「恋愛なんて入れ物、必要ないじゃない?」
―――男性はただ漠然と、立ち尽くしている。
「あなただけを見つめていきたいと思うわ」
「あなたの事を、見つめているだけで幸せなの」
「あなたがいる、それだけで私」
「だってあなたは、私を虜にした、唯一だもの」
―――男性はただ漠然と、立ち尽くしている。
―――男性はただ漠然と、立ち尽くしている。
―――男性はただ漠然と、立ち尽くしている。
―――男性はただ漠然と、立ち尽くしている。
―――女性は男性を抱きしめた。
―――女性は男性を抱きしめたまま、うっとりとしている。
―――女性は男性を抱きしめ続けている。
「 に が さ な い わ よ ? 」
―――女性が、力を込めて男性を抱きしめた。
パ、パリ―――――ン……
―――男性が、砕け散った。
「……あら、大変」
―――砕け散った男性の欠片は、消え去る前に……女性に集められた。
「……よかった、これで」
―――砕け散った、男性の欠片は、女性に、飲み込まれた。
「 永 遠 に 、 一 緒 だ ね 」
―――女性が、一人ぼっちで……幸せそうに、微笑んだ。
A型の人、怒らないでください(。>д<)