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製鉄をしよう!

 俺たちは旅をしている、ネトゲ内の大陸制覇のための残りのクエストを潰して回っている途中だ。


アル:雑魚しかいないですね?


カーボン:この大陸でのコンテンツを先にやっとこうって言ったのはアルだろう?


 アルは大陸を横断するようなクエストをポンポン受けるのをよしとせず、細々したクエストまでこの大陸無いにある物は済ませておこうという考えだった。


 反対はしない、確かに大陸間の移動はポータルをいくつも経由する必要がありコストが高い、ならば今片付けておくというのはそれなりに合理的な判断だ。


 そんなわけで比較的初期に実装されたクエストをこなすことになった、俺たちはザックザクとモンスターを狩っていた、討伐クエスト『では』それほど苦労しないのだが、お使いクエストや単純作業ははっきり言って苦行だった。


 レベルをカンストしてから初期時代のモンスター狩りをする羽目になるとは思っていなかった。ザコモンスターからのドロップを使った制作クエストで序盤のモンスターの相手をしなければならなくなった。


 何故こんなクエストがあるかと言えば、初期も初期、最初期にあまりにもスカスカの内容を水増しするために運営が時間のかかるクエストを大量に実装した名残だった。


カーボン:運営も今更ベータ時代のクエストを必死にやるギルドがあるとは思ってないだろうな……


アル:コミュ力があればとっくにクリアしたギルドに入りますからね


カーボン:コミュ障で悪かったよ……


 妹の容赦ない追求に対して俺は口出しも出来ない有様だった。


カーボン:お前はコミュ力あるのに何で俺とギルド立てたんだ?


アル:お兄ちゃんの役に立ちたかったんですよ?


 かなわないなあ……俺たちは現在鍛冶クエストをこなしている。ザコからドロップした鉄鉱石を集めてアイアンインゴットにして納品するクエストだ。


 通常のギルドなら収集班と制作班が別々に分かれていて供給される側から加工していくのだが、生憎と俺たちは二人ギルドだ。そんな役割分担を出来る人数ではない。


アル:インゴットはあと何個でしたっけ? すごく面倒くさいんですけど……


 鍛冶ギルドで炉の前で延々と鉄鉱石をインゴットにしていく作業にそろそろ音を上げそうなアルだった。


カーボン:後六十個、一二八個がノルマだから半分まできたな、鉄鉱石はアイアンゴーレムを討伐して稼いだ分で足りるだろう。後は加工するだけだな


アル:うへぇ……運営も今更このクエストに死ぬ思いしながら挑戦しているギルドが居るなんて思ってないでしょうね……


カーボン:初期はこのクエスト千二十四個だったから大分ぬるくなった方なんだよなあ……


アル:制作陣もそんな賽の河原みたいな事させるなら素直に新しいクエストの実装頑張るべきでしたね?


カーボン:そうだな、それはそうなんだが、ネトゲは初期にどれだけ人を集められるかだからな。人を離さないための涙ぐましい努力だと思ってやろうじゃないか


 初期勢としてはなんだかんだ思い入れのあるこのゲームプリミティブオンラインをやりこんだので、文句は言いつつもそれなりに満足はしている。あえて言うならぼっちに厳しい世界を作ったもんだなあと言うことだ。


 しかし初期はギルドすら実装されておらず、ひたすらモンスターを殴るだけのゲームだったことを考えると随分と進歩した物だと、子どもが成長していくのを見る親のような気分になる。


アル:『眠れる獅子』の知名度はどんなものですか? 少しくらい有名になっても良くないですか?


カーボン:アルテアのクエストすら残してるギルドが有名になるわけないだろう?


アル:現実は非情すぎませんかね!


 現実は非情である、この作業クエストもギルド実装とともに実装されたので難易度が荒削りで、初期の勢力からはノルマが多すぎると非情に不評だった。


 度重なる難易度の低下も歓迎されたのは当然と言える、初期に大量に人数を集めたギルドほど簡単にクリアできるのは先行者利益として完全に無くすと古参の不興を買いそうという考えなのだろう、ノルマは減りはしたが無くなりはしなかった。


アル:あっ! インゴットがプラス付でした!


カーボン:あー……ハズレだな、次いこう


 鍛冶スキルが高くなると使用時に成果物が高品質なプラスマークが付いたりする、それ自体は通常の鍛冶では歓迎するべき物だが、納品物が指定されているクエストでは納品できないハズレとなる。


カーボン:プラス付はオークションに流すか路上取引で売ればいいだろう、鉄鉱石には余裕があるから遠慮なく作ってくれ


 俺がぼっちだった頃に大量に集めた鉄鉱石の山が存在している、アイアンインゴットなら千個は作っても余裕のある量がギルドの倉庫に放り込んである。ギルドが必要になった理由の一つとしてギルド専用倉庫の存在がある、共有される物だが容量は無制限だ。個人で大量に持つとインベントリが一杯になってしまい、倉庫キャラが必要になっていたので俺はアルとギルドを組むのに喜んだ。


カーボン:おっと……こっちもプラス付が出たな……


アル:カーボンはなんでそんなにプラスがポンポン出るんですか? 私はそんなに出ないんですけど……


カーボン:ギルド倉庫がないと薬草や鉱石は加工して持ち歩かないと無駄に容量を食うからな


 そんなtellでのやりとりをしながら加工を続けていった、その後数時間をかけた頃にようやく納品量ができあがった。


アル:死ぬかと思った……リアル世界だったら明らかにブラック企業もいいところですよね?


カーボン:設定からするにプレイヤーは個人事業主じゃないか? ブラックも何も『勝手にやったこと』になるだろ


アル:闇が深い設定ですね……


カーボン:じゃあギルド統括に納品してくるか


アル:そうですね!


 そうしてプリミアにあるギルド統括本部にポータルを使って移動した。悲しいことに他の大陸の首都の方が栄えており、新参プレイヤーの少ない現在ではプリミアにそれほど多くの人はいなかった。


 廃人勢は課金で経験値を買うのでこの町に用はないというのがおそらくの理由だろう。しかも新規をこの大陸でのクエストをクリアしているギルドに誘うのでますますこの町の過疎化は進むのだった。


 ギルド統括本部の納品担当をクリックして納品を選ぶ。


アイアンハート:確かにアイアンインゴット百二十八個、納品を確認した


 チャッチャラー!


 効果音とともに一つのクエストが完了したことを教えてくれた。


アル:まだクエスト残ってますよね? またここに来るんですか?


カーボン:そうなるな


アル:そんなー…………酷い仕様です……


 そうして愚痴りながらも俺たちのギルドのクエストが一つ終わったのだった。

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