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聖女から見える景色

いつもの感じのやつ三作目

今日もトッピングと具を変えてあるけどうちのラーメン屋お馴染みのスープを使ってるよ

 


 ここ数年の逼迫していたはずの国庫は関係ないと言うような豪華な夜会。煌びやかに装った観客達の前で、私はたった一人で見せ物のように立ち尽くすことを強要されている。この悪趣味な場を整えた、今夜の主催である王太子殿下は……婚約者であるはずの私を放って美しく装った少女と寄り添って立っていた。

 ぽっかりあいた広間の中心で、私とはまるで敵と向かい合うよう。いえ、敵と思われているのだろう。

 目の前の二人は腕や体には触れておらず適切な距離を保っているが、その間にはどこか親密な空気が流れていた。

 きっと、私という婚約者がありながら男女の関係になってたに違いない。汚らわしい、と私は首から下げていた聖教のモチーフである二重の円環に助けを求めるように触れる。そんな私をバカにするように睨みつけると、ヴィクトル殿下は冷たい声で切り出した。


「聖女リュシール・セレナイト……いや、謀反人リュシール! 招待状も出していないのによくもこの夜会に顔を出せたな。清貧をうたう教会の人間が呆れる」

「聞き捨てなりません、謀反人などと何を根拠に。それに招待状など無くても、私はヴィクトル様の婚約者! 正式な夜会の出席を咎められる理由にはなりません!」


 ヴィクトル殿下は私が袖を通している聖女としての衣装に目を向けると嫌そうな顔をしているが、何が言いたいのか。貴方が婚約者としてのつとめを果たさず、聖女として人前に出るのに恥ずかしくないような装いを用意してくれないから教会側で全部まかなっていると言うのに。

 隣に立っている彼女は、聖女を弾劾する悪役にしては清楚なデザインのドレスを着ているが、きっとこれも計算のうちだろう。私は胸を張って自分の正当性を主張する。


「君との婚約は今日の日付をもって破棄されている。教会を通して伝えてあるはずだ」

「あのように一方的に書だけ送りつけられて承知するわけがございません。国と教会の契約でもあるこの婚約をどうお考えで?!」

「これは私の独断ではない、当然陛下の了承の元で行われているに決まっているだろう。陛下もお前のような謀反人を次期王妃に据えておくことは出来ないといよいよご決断なさったのだ」

「なんて事を……!」


 私は怒りに震えた。この男は何を言っているのか、きっと自分の都合の良い話を作って父親に吹き込んだに違いない。


「そもそも、この婚約の解消は二年前から教会に申し入れていただろう。穏便な解消を持ちかけていた内に応じなかったのはそちらだ」

「あのような条件を受け入れられるわけがございません。国から我が聖教会への年棒は例年の十分の一、その上結界維持で常に大変な聖職者達に治癒院の真似までしろとは。資金も、時間も、それでは神職者達の修行が行えません! この国を守る結界を誰が維持しているかお忘れですか?」


 国を守る結界は教会で修行した聖女と神官達が張っている。私は一番修行に熱心であるとして筆頭聖女の名を授けられ、教会から命じられて王太子の婚約者となった。私から望んだことではないのに、大事にされた事なんて一回も無くてエスコート等の義務も最低限。人の目がないところでは常に不機嫌で……こちらが婚約をしてあげた側なのに、自分の立場をはき違えてこんな事を言い出すなんてがっかりだわ。


「結界ね。ああ、教会が結界を維持しているのは知っている。結界維持費として不当に莫大な金額を国に請求しているのも」


 確かに結界の発動自体にお金を使っている訳ではない。必要なものは修行を積んだ聖女と神官達の魔力だけだ。でも、その修行にお金がかかるが故の必要経費であるのに、この人は何も分かっていない。聖女と神官の修行にお金がかかる事なんて常識で知っているはずなのに何を言ってるの?


「魔物のいない平穏な暮らしは本来お金には代えられない尊いものですが、おわかりにならないのですか?」

「当然その価値は知っているさ。しかしその対価があれでは流石に高すぎる。適切な金額を提示した再契約に教会側が応じないから決裂したというだけの話だ」

「結界が無くなったら大変なことになりますよ。いいのですか?!」

「脅しか? フン……我が国が教会に搾取されるだけで何もして来なかったと思っているのか。当然その代案は用意している」


 傲慢に鼻を鳴らしてこちらを見下すヴィクトル様。くやしいけれど、そんな姿も様になるほど格好良い。

 一瞬見惚れそうになったのを頭から追い払い、私は奥歯をぐっと噛みしめた。間違っているのはあちらなのに、なぜ私がこんなつるし上げのような真似をされないといけないの。


「代案? 神聖で偉大な結界の代わりを何に任せるおつもりですか」

「彼女が中心となって開発した、真に神聖な結界だ。レイラ」

「ご紹介にあずかりました、レイラ・アーク・ベルディです」


 ああ……分かった。分かってしまった。最初から私の後釜にこの女を据えるつもりなんだろう。私と言う真の聖女を追い出し、自分のお気に入りの結界のアピールと宣伝をして箔をつけるために。

 今まで散々口を出してきた、教会の費用だとか、聖女や神官の衣装の予算、修行に使う必要経費に、教会の運営する孤児院や救貧院で行っている事業、それらの理由はきっと後付けでしかない。

 こんな屁理屈捏ね回してまで、よっぽどこの婚約を破棄したいのだろう。そう思うと最後まで残っていた情が消えて、「じゃあそれでやってみれば?」と突き放すような冷たい言葉しか浮かんでこなかった。しかたないでしょ。ここまで言われたら、10年婚約していた情も枯れ果てるわ。

 




毎日19時に更新して4話で完結予定です。

今すぐ読み切りできる短い話を毎日投稿してます。

他の作品も、とくに書籍発売日が2/2にせまる「悪役令嬢の中の人」をよろしくお願いしますー

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