底抜けに間抜けなドラゴンと旅人
ドラゴンというのは古今東西、巨大で強い魔物でございます。鋼の鱗やら剣の牙やら、魔力を秘めた瞳やら、はたまた万物をも焼き尽くす炎まで持ち合わせているのです。
さて、このドラゴンも例外ではございません。名前はジャックといたしましょう。ジャックも他のドラゴンと同様、大きな体を持っておりました。立派な鱗は赤く輝き、黒い牙は黒曜石のようで、ギロリとした瞳は白い真珠でした。
ただしこのジャック、ものすごく、底抜けに間抜けでございました。
こんな間抜けなドラゴンはまたとおりません。それを知ったある旅人が、しめしめとジャックの所へやって来ました。そしてジャックに言いました。
「おやおや、君の鱗、真っ赤じゃないか。それはとても悪い病気だよ。私が全て、とってあげよう」
ジャックはとても親切な旅人がやって来たと、大喜びでした。
「本当かい?君に会えてよかったよ。どうか僕の病気を治しておくれ」
旅人はジャックの美しい赤い鱗を、全て取ってしまいました。
「ははは、これで素晴らしい鎧が作れるぞ・・・」
次の日、再びその旅人がジャックのもとへとやって来ました。鱗をなくしたジャックに、旅人は言います。
「おやおや、君の歯は真っ黒じゃないか。それはとても悪い虫歯だよ。私が全て、とってあげよう」
ジャックは本当に親切な旅人だと、感謝しました。
「本当かい?君は優しいね。どうか僕の虫歯を治しておくれ」
旅人はジャックの美しい黒い牙を、全て取ってしまいました。
「ひひひ、これで最強の剣を作れるぞ・・・」
その次の日、またまたその旅人がジャックの所へやって来ました。鱗も牙もなくしたジャックに、旅人は言います。
「おやおや、君の瞳は真っ白じゃないか。それはとても悪い呪いだよ。私が全て、とってあげよう」
ジャックはなんて愛しい旅人だと、涙を流しました。
「本当かい?君にはなんてお礼を言えばいいのか。どうか僕の呪いを解いておくれ」
旅人はジャックの美しい瞳を両方とも取ってしまいました。旅人はこれで透明になれる盾を作れると大喜びでしたが、その場を去ろうとする彼に、ジャックが言いました。
「そうだ、旅人さん」
鱗もなくし、牙もなくし、瞳もなくしたジャックは、最後に残ったものも、旅人に取ってもらおうと思ったのです。ジャックは口を開けました。
「どうせなら、これもとっておくれ」
旅人は逃げる間もなく、万物をも焼くあの炎に、包まれましたとさ。
最後まで読んで下さり、ありがとうございました。