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「あたし、一年の今頃、美化委員で島岡先輩と一緒だったんだ」
えぐりんが、黙ってうなずく。
ほんとは女バスの真紀ちゃんたちと、放送委員やりたかったんだけど、うちのクラス希望者多くて。おとなしい子に強い子たちがプレッシャーかける感じになったから、あたしは誰も手をあげてない美化委員に希望を変えた。
校内のチェックとか石鹸の補充とか、地味に面倒な美化委員は、人気なくて。
委員会の初日、あたし以外のメンバーもみんな、だるーって感じで集まったら、二年生に男バスの新部長の島岡先輩がいて、びっくりした。先輩は、人気のある委員会で友だちに囲まれてるイメージだったから。
「先輩、何でもできるもんな」
ぽつりとえぐりんが言う。
「うん」
思い出して、あたしはふっと笑った。
「先輩、さくっと委員長やってくれて、みんな、予想と違ってすごいいい感じでやれたんだけど。美化ポスター作るのは、ダメダメだったー」
ごめん、おれの絵、マジ怖いから。
急に弱気になった先輩は、かわいかった。
色塗りならやるから、指示出して! とか言って。
それまでは、練習のときあんま笑わないし、怖い人かと思ってたんだけど。
だんだん、話せるようになって。
「いい人だよね、先輩」
「おお」
えぐりんが小さくうなずく。
「物足りなかったんじゃないかな、あたし」
するっと、言葉が出た。
「そんなことねーよ」
えぐりんが、前を向いたままで言った。
えぐりん、いいやつだから。
黙ったままのあたしに、
「お似合いだと思ってたよ、みんな」
こっちを向いて、もう一度言う。
「ちびっこだからなー、あたし」
空気変えたくて、あたしは、自分からいつものネタを出した。みんなに言われてるやつ。バスケ部なのに、クラスで一番小さいから。
えぐりんと違って、あたしの取り柄は足速いだけで、自分なりに頑張ってるけど、副部長なのにレギュラーかどうかも微妙。
先輩とつきあい始めたときから、不思議だったんだ。先輩、なんであたしなのかな、って。
「ユズ、人気あるじゃん。男子とも仲いいし」
「面白がられてるだけじゃないかな」
みんな、仲良くしてくれるけど。ちっちゃい子構ってるみたいだもん。
「あー、そっか。え? そうかな?」
えぐりんは隣で、一人で迷子になってる。
もー、えぐりん。
こんなときなのに、笑えてきちゃうじゃん。
「先輩のことは、正直わかんねーけど」
あ、えぐりん帰ってきた。
「ユズおまえ、イケメンだろ。小さいけど」
「や、『小さい』いらないよね?」
さっきも言われたけど、イケメンって何の話かな? わかんないまま、笑ってつっこむ。
でもそこで、言葉が続かなくなった。
えぐりんが、まじめな顔してたから。