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「あ、ちょっと待って」
思いついて、コンビニの前で、えぐりんからクッキーの紙袋を受け取った。
ゆっくり、ゴミ箱の前まで歩いていく。
「もやせるゴミ」に入れようとしたところで、後ろから来たえぐりんに、さっと取り上げられた。
「先輩のでしょ?」
「だって」
もう、あげられないし。
持ってても辛いだけ。昨日の夜、二時までかかって焼いたチョコクッキー。
「じゃあ、おれ食っていい?」
いきなり、えぐりんが壁際に座りこんだ。
「え?」
あたしはびっくりしてえぐりんを見下ろす。
つんつん頭のえぐりんが、ラッピングをがさがさ開く。
「食べもの捨てんのもったいねーだろ。いただきます」
足首かばいながら、あたしも隣に腰を下ろした。
あーこれ、学校に電話かかってきて、全校集会で怒られるやつだ。
コンビニの前でたむろする、下校中の中学生。
「うまいよ。ユズも食えば?」
もしゃもしゃクッキーを食べながら、えぐりんが一枚あたしに手渡す。
てか、元々あたしのだし。ほんと天然。
チョコクッキー。お菓子作るの、得意なわけじゃないけど。一枚一枚、心を込めて作った。
見てたら、頭の中、自動でいろんなこと再生し始めちゃって。
涙、また出そうになって、大急ぎで口に入れた。
硬くて甘くて苦い。ココアの香り。ちょっと油出てる。
「あ、すげえ! メッセージ付き」
えぐりんが取り出した大きめのやつ。
全然すごくないよ。チョコペンでメッセージ書いただけだもん。男子、ツボ浅い。
“CONGRATULATION☆“
しばらく眺めてから、えぐりんはぱくって一口で食べた。
合格おめでとうございます、って。先輩に。
あたしは黙って、もう一枚クッキー出して食べる。
日曜の約束。めちゃめちゃ嬉しかったけど。
ほんとはちょっと、怖かった。
高校行ったら、あんまり会えなくなるって言われそうな気がしてた。島岡先輩に。
先輩は、優しいから。ほんとの理由は言わないで、仕方ないねって、おしまいにされそうで。
だからその前に、お祝いしたかったんだ。
島岡先輩のこと、応援してたから。つきあう前から、ずっとファンだったから。
ほんとの理由、えり先輩だなんて、気づかなかったけど。おこちゃま過ぎて、あたし。
お祝いしたかったんだ、先輩。ごめんね、勝手で。