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「先輩たち、悪くないもん」
「悪いよ!
ユズ、島岡先輩とつき合ってんのに」
「……二股じゃないもん。多分」
だって。
……ちゃんと言おうとしてたもん、島岡先輩。あたしに。多分。
ほんとはちょっと、気づいてたんだ。
受験終わるまで会うのやめよ、って言われたときとか。昨日の個チャも。
先輩、なんか違うって思ってたんじゃないかな。あたしのこと。
怖くて、訊けなかったけど。
……悲しいけど。
唇、震えそうになって、口元に力入れる。
泣きそうだった、えり先輩の声。
仕方、なかったんだと思う。きっと。
「だからって、浮気は浮気だろ。
ユズまだ、別れるって言ってないだろ」
「……そんなの。結婚と違うし。
気持ち、なくなったら終わりだよ」
(――うん、しょうがない)
伏せてた目を上げると、
「……ユズ、イケメン」
びっくりした顔でそう言って、えぐりんは口をつぐんだ。
どういう意味かな。
言われたこと理解できないまま、あたしも黙り込む。
だって、そういうことだよ。
あたし、二年生の中でもおこちゃまだけど。こういうの、浮気とは思わない。
心は縛れないもん。
だけど。
わかってても、涙は止まんないんだ。
(ずっと、待ってたのに。先輩)
会いたいの、我慢してたのに。今になって、こんな風に知っちゃうくらいなら。
もっと早く言ってほしかったよ、先輩。傷ついても。
「帰ろ」
えぐりんが、あたしの荷物を持って立ち上がった。リュックと、握りしめてくしゃくしゃになった紙袋。
「はい」
差し出された手をつかんで。反対の手で、タオルハンカチ顔にあてたまま、あたしも立ち上がる。
おおお、って、どよめきみたいのが、男バスの方から聞こえた。
「藤井―」
えぐりんが、サブキャプの藤井くんのとこに行った。みんな、こっちを見てる。