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 吸い寄せられるように、あたしは開いたままのドアに近づいた。

 

 教室の後ろの方、島岡先輩と向かい合って立ってる、すらっとした後ろ姿。 

 女バス元部長の、えり先輩だった。落ち着いてて、あたしたち後輩みんな憧れの。


(島岡先輩、マフラーしてない)

 

 取り込み中なのに、あたしはつい、そんなとこチェックしてた。

 使ってくれてないのかな。クリスマスにあげた、タータンチェックの。


 そのとき、


「ユズが、かわいそうだよ」

 

 えり先輩が、泣きそうな声で言うのが聞こえて。 

 あたしは死ぬほどびっくりした。


(え? あたしの話?)

 

 そしたら、島岡先輩の手が、えり先輩の肩にかかって。

 

 そんで。


「え?! チュー?!」


「……ちょ、バカ! えぐりんバカ!」

 

 昇降口、隣にしゃがんであたしの話聞いてたえぐりんが。よりによって耳元で、超無神経なこと言うから!

 思わずグーでお腹殴った。

 

 うぐ、って、変な声出してお腹おさえるえぐりん。

 

 男バスのみんなは離れたとこで、こっちチラ見しながら筋トレしてる。


「……三年のえり先輩って、あの、美女の?」


「うん、美女の」


 お腹をさすりながらきくえぐりんに、あたしは頷く。

 

 ちびっこのあたしとは何もかも違う。髪の毛長くて、フリースローすごい入って。

 

 島岡先輩がえり先輩と一緒にいるとこ、今までに結構見てきた。部長会行くときとか。仲良さそうに笑ってた。

 正直、そう、お似合い。そんな感じ。

 

 だけど。だけどさ。

 まだだったのに。あたしと先輩……チュー。

 

 えり先輩、あっという間にあたしのこと追い抜いて、置いてって。


「ユズおまえ、それで走って逃げて来たの?」


「うん。隠れるとこ、思いつかなくて」

 

 えぐりんが、怒った顔になった。


「みつかったっていいじゃん。

おまえ、めっちゃショック受けてんのに」


「だって」

 

 ショックだけど。すごく、ショックだけど。



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