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「いいじゃん! 足挫いたの!」
思わず顔を上げたら、えぐりんのびっくり顔がすぐそばにあって、お互い「わっ」てなった。
「大丈夫?」
わんこみたいな目で訊かれる。
「島岡先輩と、ケンカ?」
「は?!」
つい、大きい声が出た。
えぐりんは構わず続ける。
「昼休み、大野たちと騒いでたでしょ。
先輩に、お祝い言いに行くって」
そうだよ。女バスの真紀ちゃんたちと、きゃっきゃしてた。
昨日、都立高校の合格発表があって。
夜、先輩からメッセージ来た。受かったって。
今度の日曜、会う約束した。
二人で会うのはクリスマス以来。受験が終わるまで我慢、って、約束してたから。
メールの後、あたしはチョコクッキーを焼いた。延期になってたバレンタインチョコのつもり。
島岡先輩は、恥ずかしいからって、学校では二人になりたがらない。
けど、渡すの、日曜まで待てなくて。それにやっぱ、先輩の顔を見ておめでとうが言いたかったから。
焼いたクッキーは、目立たない紙の手提げ袋に入れた。放課後、先輩に渡して、おめでとうございますって言えたら、って。
今日、帰りのホームルームが終わってすぐ、先輩の教室にダッシュした。
三年生の教室がある三階は、静かだった。みんな弾けてるかと思ったけど、今日はなんだかんだ忙しいらしい。私立も都立も落ちて、まだ受験中の人もいるし。
島岡先輩のクラスのそばまで来たら、中から声が聞こえてきた。言い争ってるみたいな。
どうしよう、って、足が止まった。
そしたら、小さいけどはっきり、女の人の声が、
「だめだよ、島岡くん」
って。
それ、知ってる声で。